ナースの心身の健康 |
2002年9月10日
ご注意!
この文章は、ナースのメンタルヘルス総論です。したがって、対策については、ほとんど触れていません。
物足りない人は「ナーシングパワーの消耗」をご覧ください。
医療機関以外の職場では、医療事故を<ミス・トラブル・製品の欠陥>などと読み替えましょう。
ただ、
@メンタルヘルス悪化の背後に横たわるものは、ミス・事故、スキャンダルをも引き起こすということ
A職場のうつ病では、身体症状に注目すること
を強調しました(Aは他のページでも再三ふれている、重要ポイント)
1.知ってる?
病院は危険な職場だってこと、産業医学からみるとね。有害な消毒液とかガス*、医薬品という名の劇薬**もある。そして放射線もあびるし。針刺しや結核などの院内感染の危険はそこらじゅうにある。ということは典型的な3K職場だといえます!
産業医大の先生方は、こういっています。「医療機関は、労働安全衛生の面で課題が山積された職場」。職員の安全面では、医療機関は建設業などの製造業よりも、遅れているといえます。
*内視鏡の消毒に使うグルタールアルデヒド、ガス滅菌のエチレンオキサイド
**たとえば狭心症や心不全使うミリスロールやニトロール。
2.ほかにも夜勤というキケンがある!
危険性でいえば何といっても看護師には深夜労働があります。たとえば二交替勤務(三交替も同じよ−なものだけど)では、採血の時間帯の朝6時に、看護師をフリッカー試験で検査すると、なんと酒気帯び状態の意識レベルだそうです! だから「ミスしないように、シャンとしなければ」と明けまでに気持ちを集中しようとする。だから交感神経がコーフンしたまま、家に帰ることになって、寝たいのに眠れなくなりますね。
眠るために、心と体がクールダウンするには一定の時間がかかるのに・・・人間は夜行性動物ではないのに、人の命を守るため、自然に逆らった仕事をしなければならない。だから夜勤業務には法的な規制があり、病院の経営者や管理者には、看護師の健康の健康に配慮する義務があるのです(安全配慮義務)。
3.メンタルヘルス悪化のサイン
ナースのメンタルヘルスが悪化しています。これは医療事故と表裏の関係にあるのです。
注)メンタルヘルスの不調な看護師がミスをするという意味ではありません。
うつ病やパニック障害など、心の病気の多くは「疲労」を土台にして、そこにさまざまなストレスが加わって発病するのです。
筆者の印象では
@新人ナースが1年以内にメンタルの不調をきたして退職するケース
Aベテランの主任クラスの看護師がうつ病になって休業する事例
が最近増えているようです。
うつ病は、女性の4人に1人が一生のうちで一度はかかる、よくある病気。決断力が鈍って仕事の能率が悪くなり、消えてしまいたい、遠くへいってしまいたい、いっそ死にたいという気持ちになってきます。
でも、うつ病では体の症状に注目!
@眠れない(途中で目がさめる)、食欲がない、だるいという3つの体の症状がほぼ同時にくる。そして
A仕事にいきたくない気持ちがあると、うつ病の可能性が高い。
性格的には、他人によく気をつかう、真面目ながんばり屋さんがなりやすいといえます。
抗うつ薬をのんで、しっかり休養すれば治ります。けれど病気の治癒と、仕事をする能力の回復にはズレがあるので、職場復帰に際しては、周囲の仲間の個人的な配慮、さらには看護部による組織的な支援が求められます。
4.最大のストレス「異動」
ナースがメンタルヘルスの不調をおこすきっかけとして、勤務異動があります。近畿地方の公的大病院で、経営のため採算のあわない科の病棟を閉鎖して、14人の様々な年齢の看護師が異動したら、半年のうちで4人がうつ病になって、そのうち3人が退職しました。現代は看護も専門化していますね。手術部を7年経験したナースがキャリアアップのため精神科へ異動したら、ベテランナースも「新人」ですね。ちょっと目じりに小皺がよっているけれど(失礼!)。新しい職場では新人とは思われません。ご本人はプライドがあるから質問できないし、周囲は気をつかって、あれこれチェックしにくい。これが異動のストレスなんです。
5.出入りの多い職場もストレス
勤務異動や退職者が多くて、出入りの激しい所も、心への負担が大きいようです。産休明けで元の職場へ戻ってみたら知らない人ばかりで、薬の名前まで変わってしまい、浦島太郎状態になる。これも異動と同じストレスですね。逆に、職員の出入りが少ない職場の場合、メンタルヘルスは良いみたい。そういう所は、職場のことは何でも知っている「生き字引さん」がいるのです。
6.医療事故と不倫
メンタルヘルスの悪化した院所では、医療事故やスキャンダル(不倫)もあることが多いのです(図)。読者の皆さん、ダイジョーブですか・・笑?、笑えなかったりして・・・。
7.どーすればいいの?
看護師個人の力だけでは、どうにもなりません。医療の安全性と同じくらい、経営者や総婦長、婦長さんは職員の安全と健康に配慮してくださいね。労働安全衛生法という法律があって、これにもとづいて安全衛生委員会(法人によっては衛生管理委員会など)で、理事と労組が対等な立場で討論し、
職員の安全と健康を守る取り組みをすればよいのです。
図の解説 メンタルヘルスの悪化は氷山の一角
職員の安全と健康に配慮しない職場では、看護師は、疲労やストレスのために看護力の消耗がおこってきます。これに管理職がうまく対応できなければ、メンタルヘルスの悪化がおこります。たとえば覚醒度が下がって、うっかりミスをしたり、逆に精神的なプレッシャーのため緊張しすぎて、動作が滑らかでなくなり事故を起こすかもしれません(医療事故)。人によっては、ストレスに不適切な対処(解消)行動をとり、不倫とかアルコールやギャンブルなどへの依存も起こるでしょう。メンタルヘルスの悪化、医療事故、不倫などみかけは関係ない出来事でも、その根っこには共通するモノ(本質)が隠れているのです。