もう一度ナースの配置転換を考えてみましょう

                                       2002年4月22日

この提言は、医療業界に関わらなく当てはまることだと思いますが、どうでしょうか?
医療業界はとっても遅れていて、民間企業に学ぶべきことがたくさんありますね。

逆に、他の業種の方にも、医療業界のおかれている現状を知っていただけたらと思います。
他人事が自分の身つまりは命に降りかかってくる、といういうこと!

いろんな意味で、異業種の交流があるとよいですね!


1)ナースにとっても配転は大きなストレス

全国各地で好むと好まざるとに関わらず、ナースにとっての配置転換はつき物です。医療機関の経営悪化がすすんで、予期せぬときに大量の配転が行われる傾向が出てきています。

医療改革への対応ということで、院内の赤字病棟は縮小、統合という病院もあります。民間企業風にいえば
「経営資源の選択と集中」*というわけですね。この是非はともかくとして、実態をみることとしましょう。

*利益の出ない部分は思い切ってリストラし、利益の出せるところに設備と従業員(経営資源)を移動すること



2)配転の結果は

事例 
西日本のある大都市の公的基幹病院、A病院は約1000床でナースは700名もいます。赤字のB科があるB病棟を閉鎖し、15名のナース(20歳代から50歳代までさまざま)を各科に配置転換したのです。半年もたたないうちに、ストレスのため3名が退職し、1名がメンタルヘルスの不調で休業中だそうです。この4名の年齢構成は20代から50代まで幅広く、若い20歳代だから大丈夫というわけではありません。



3)配転後はみな新人以下

これだけ医療が高度に専門分化したというのに、労使ともに配転への科学的な視点がないのです。たとえば教授や院長が、卒後6年目の循環器科のドクターに「キミ来月から消化器科やってよ」と言ったとしたら、全医師、職員から「この人は医者だろうか?」と思われるでしょうし、そもそもそんな事は例外中の例外です。

ナースも同じで日本の大病院の病棟は専門病棟。
カンファレンスに参加して新しいことを学び、看護雑誌を読み、レベルアップしているはずです。そうしていないと日々の業務についていけないほど、医学の進歩は速く患者さまから求められるものは大きいのです。

これは医療職だけではなく、現代のビジネスパースンならば当たり前のことですね。つまりナースの専門性が強まっているのに、配転(ジョブローテーション)にかかわる教育がなされていないのが問題です。


教育の問題は別の所でも述べました。ここでは配転されたナースの気持ちを考えて見ましょう。



(1)プライドのため聞けない

ナースも30歳前後となればベテランです。公的大病院ならば40歳位なら平ナースでも小さな民間病院へいけば婦長になれます。それまでの職場ではベテランで知識と経験も豊富で若いナースを指導していたはずです。だからプライドがあって当たり前ですね。配転される前などは、「新しい職場を経験してスキルアップしよう!」とまで思うのも不思議ではありません。
 けれど現実は違っていて、3年目のナース以下です。


(2)聞きづらい
ナースたちが余りにも忙しそうにしているため、気を使ってしまうと、聞きそびれてしまう。新人ナースと違って、全く何も知らないわけではない。動ける部分もある(バイタルチェックくらいはできる)だけに、自分も回りもつい油断してしまう。けれど大事なところ、つまりその病棟の専門的な部分で急停止するわけですね。


(3)聞いてもすぐ覚えられない
人間という生き物である限り、年をとれば物覚えが悪くなりますね。何度も聞かないと覚えられないし、覚えるのにも時間がかかります。この簡単な事実を忘れないようにしましょう。


(4)口頭での申し送りが主体
教育などありません。せいぜいが、初日、二日目に病棟内を案内されて口頭で説明を受ける程度でしょう。
そんな事で仕事が覚えられるわけはないのに!!

病院の業務は他のサービス業と違ってマニュアル化されていない、しにくい業務がたくさんあります。口頭で説明されて、メモを取ったところで覚えるべきことの10分の1も身につかないはずです。「細かいところは、その時になって聞いてくださいね」
日本全国まあ、そんなものです。文書化されていないものは、覚えるのは実に大変です!


次に受け入れるナースの身になって考えてみましょう。
*医療以外の業種では、ドクターを上司に置き換えてみましょう


(1)自分だってよくわからない
「そんなこともわからないの!」と思わず言ってしまいますね。
ストレスがたまっていて、つい意地悪になってしまう場合もあるかもしれません。あるいはホンネをいえば自分だってよくわからないし、習慣でなんとなくそうなっている、という事(マニュアル化していないこと)は医療の分野ではよくあるのです。たとえば主治医によって対応が違うこともありましょう。それを細かく説明していたら、自分の仕事が回らなくなってしまう。


(2)ドクターには聞けない
 職場の雰囲気がオープンではなくて、特にドクターと気安く話せない職場は大変です。ドクターは診療に関わるあらゆる情報を集め、医療の方針を出す司令塔ですから、「情報の糞詰まり」が起こったらアウトです。ところがやたらと横柄な人、質問に気楽に答えてあげない上司というものはどこの世界にもあって、そういう職場ではともに考えあうという姿勢になれない。

「実はあたしも良くわからないの、何となくそうなっているから。でも今度カンファレンスで確認しましょうね。ドクターに教えてもらいましょう。」という風に応えられれば(答えられなくても)よいのです。
 つまり職場風土がオープンであるか、が問われているのです。これは他業種も同じ事で、聞きたいことがきける職場かそうでないかは、生産性に大きく直結するのです。


(3)退職が出るということ
 多くのナース、特に若い方は、職場のストレスが大きい場合、ライセンスで喰っていける職業なので退職しますね。これに対してビジネスパースンでは発病するリスクが高いといえます。しかしナースも35歳を過ぎると正看護婦であっても人件費が高くなり、敬遠されてしまうというのが現実です。ですから今後は配転によって発病する方が増えてくるでしょう。

病院にとっては、前向きな善意で「経営資源の選択と集中」を目指したのに、少なからぬ退職者がでるというのは大変なことです。看護というのは技術職であり、現代ではかなりの専門性が求められますから、そう簡単には養成できないわけです。増員や欠員補充をあてにしていたセクションは振り出しに戻った状態となります。かなりの看護力すなわちナーシングパワーがその病院から失われて、医療事故すら招きかねません。



(4)提案

労使ともに次のような方策が求められます。

@十分な準備期間
配置転換をする場合、十分な準備期間(皆さんで考えてください)をおき、
Off the jobのトレーニングを行う。たとえば配転予定のナースには一定期間、日勤を早く終えるようにして、配転先の部署の見学・研修を保障する。

A業務のマニュアル化、マニュアルの充実
平素から業務のマニュアル化を進めて、マニュアルに基づいた教育指導を習慣をつけておく。スタッフも我流や経験主義ではなく、マニュアルにもとづいた業務をするようにしましょう。どうもアリバイ的な役に立たないマニュアル(特に検査手順)が多いので、見直しましょう。 

B配転後少なくとも半年は配慮を
新人ナースに3年目のプリセプター(お姉さん役)がつくように、配転された人をサポートする役を作ったらどうでしょうか? サポートする人も大変ですが、サポートすることを通じてスキルアップにつながるはずです。夜勤のあるところでは、新人のように夜勤に入る時期に猶予を持たせることも一法でしょう。

B教育部門の強化、工夫
可能なところでは教育婦長などをおいて、配転にかかわる教育に権限と責任をもってもらう。とかく教育婦長は新人の養成や、発表などの尻たたきが中心で、病棟や外来婦長の権限に関する日常業務については遠慮して関われません。ここには工夫が必要でしょう。

Cオープンな職場風土を
訊けない職場、いえない職場では良い意味での相互チェックがなされず、医療事故の危険が高まります。

D発想の転換を
そんな時間、人、金はない! というのは医療に限らずあらゆる業種の普通の管理職、経営者が考えることです。

でもそういう発想では現在の難局を乗り切れないのでは、と思いますがどうでしょうか?
あるいは民間優良企業の経営者に、医療の分野での、「教育への投資効果」を質問してみたらどうでしょうか? 

他業種に比べてかなり高い、という答え、いや期待が返ってくるはずです。当たり前のハナシですね。誰しもちゃんとした教育を受けたナースから看護を受けたいでしょうから・・・。

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