よく出る質問と答え
(1)職場復帰
@職場復帰してきた人にどう接したらいいの?
A職場復帰してきた人をどうフォローすればいいの?
B職場復帰はどういう風にしたらいいの?
C発病者が増えても、職場復帰できる対策や治療法は?
D再発を防ぐための個人の対策は?
(2)どうやって受診をすすめるか?
@家族や、その人が信頼している人がすすめる
A職場の上司がすすめる場合
B受診を拒否される場合
(1)職場復帰
これだけでも一冊の本が必要かもしれない大きなテーマです。
なぜなら、再発をくり返すビジネスマンも多いのです。再発がくり返される場合には、その人の個性に問題がある場合、職場環境に問題がある場合、その両方が考えられます。 職場環境に問題がある場合であっても、「復帰する人は完全に良くなってきて欲しい」とか「強くなって戻ってきて欲しい」と復帰する個人に責任を求めたくなる気持ちは理解できます。
メンタルヘルスの問題を職場のリスク管理とだけとらえた場合、事なかれ主義で病気の既往がある人を排除することになれば、自分をさしおいて周囲のためにがんばる、という貴重な人材を失うことになるのです。
注)「職場のメンタルヘルスがとことんわかる本」67ページ (5)ワーキングパワ−の個人差が組織を生かす
しかも、メンタルヘルスの悪化はその人の個人責任ばかりではなく、職場管理者の安全配慮義務のあり方にも大きく関係するのです。そして復職者も職場も一回り大きく成長することが、企業や当局のメリットでもあるのです。
@職場復帰してきた人にどう接したらいいの?
もしあなたが重い腰痛症になって、2週間ほど入院したとしましょう。めでたく退院したものの、もちろん無理はできないですね。そういう時はどうして欲しいですか?
そこそこ、いたわって欲しいけれど、あれこれ詮索されたくはないですね。事あるごとに、「無理するなよ」「重いものは持たないで」など、いわれていたら嫌ですよね!
そうケガや体の病気になって職場復帰した人と同じように接すればよいのでは。
つまり
1)普通に接する。腫れ物に触るように気を使われたら、誰でも嫌ですよね。
2)大事なことは、うつ病の場合、励ましは禁物です!
3)受診を保障すること、いいかえると薬を飲み続けてもらうこと
4)療養期間中は大事な決定をしない
Dでも書いてありますが、再発を防ぐためには、ともかく薬物療法を続けることがポイントです。
しかし、うつ病になるような方は真面目で律儀なため、「周りの人に治ったことを認めてもらいたい」という気持ちが強く、薬をやめることにこだわって、いつの間にやら受診しなくなる人がいます。
中には治療が中途半端で、患者さん自身が「うつ病という病気」になっていることを認めないで、「疲労だ、気のせいだ、自分は根性がないからだ」などと考えている場合もあります。
うつ病は、高血圧症や糖尿病などの生活習慣病に似た慢性病です。職場のうつ病の場合は、働き方にも問題があって、そういう意味では「ビジネス習慣病」ともいえましょう。
とりわけ上司は、「医者が良いというまで通院するのですよ」と指導するとよいのです。
もし、その部下の患者さんが「もう症状が取れたし、受診で休むのは皆に迷惑をかけるから」という反応をしたら、「しっかり受診して、健康管理をするのが、あなたのお仕事です。」などというのが良いでしょう。
「療養期間中は大事な決定をしない」というのは、どのテキストにも書いてあることです。
うつ病の方は、過去、現在、未来にたいして否定的な考え方をしがちです。
たとえば、「こんな自分は皆の足手まといだから会社を辞めたほうが良い」などと思うのです。
病気によってものの考え方がゆがんでいるわけで、そういう時には、大事な決定は先延ばしにしたほうが良いのです。
A職場復帰してきた人をどうフォローすればいいの?
職場にまず慣れてもらうほうがいいから、無理をして欲しくない気持ちから出る質問ですね。その人ができなくなってしまった分の仕事をどうカバーすべきか? という意味だとすれば、あなたが管理職の場合とスタッフの場合とでは異なります。
スタッフの方の場合、そういうことは管理職の決めてもらいましょう。あなた自身が考えるべきテーマではありませんよ。かえってストレスになるでしょう!
管理職の方の場合、「職場のメンタルヘルスがとことんわかる本」の89ページからをよく読みましょう。
最悪の対応は
1)足手まとい
2)その人の分の負担がくるから迷惑
3)しっかり治してガンガン働けるようになってから出て来い
4)怠け者じゃないの?
心に思うことは態度に出てしまいます。
これらは誤解に基づく偏見とは片付けられない問題が横たわっています。
すでに職場そのものが病気であって、メンタルヘルス悪化のドミノ倒しになるでしょう。
こういう発想で仕事する職場や会社は中、長期的に見て業績が悪化するわけで、管理職や経営者はふんどしを締めなおしましょう。
B職場復帰はどういう風にしたらいいの?
うつ病の場合、ポイントは段階的復帰です。
うつ病は、治療によって症状が取れることと働く能力(ワーキングパワ−)が元に戻ることにはズレがあります。このズレを埋めるのが段階的復帰なのです。
これはスポーツを例に例えると判りやすいのです。
練習する場合、急に走り出してはいけないのであって、ウォーミングアップが必要です。
休場した相撲力士が復帰する場合、いきなりぶつかり稽古はしません。まずはシコを踏むことからしますね。
段階的復帰はウォーミングアップなのだよ、と職場の皆さんも理解することが大切です。
段階的復帰の具体例
たとえば、二週間は半日勤務、次の二週間は一日勤務だけれど残業はしない、などのように。
最近、休職中の患者さんに試し出勤を求める職場もありますが、これは考えもの。ただし、主治医が職場復帰可能という診断書を書いたとしても、どのように復帰してもらうかの決定権は事実上職場の管理者にあるのです。参考書の中には、診断書は職場復帰の参考資料に過ぎない、としているものもある程です。
つまり管理者が職場の利益と復帰する人の利益を対立させて考えた場合、人事権をもった管理職が復職を許可しない場合もありうるのです。確かにそういう傾向が今の現実かもしれません。
ただ心の病を克服しようとしている人の願いよりも、常に職場の利益が優先される判断がされる場合、その職場ではたらく人々のメンタルヘルスへの偏見が作られていくでしょう。しかも、「心の病気になって休職した場合、職場復帰は困難だ」という見方が定着すれば、心の不調をきたしても、誰も健康管理室や医者に行かなくなる恐れがあります。
つまり管理者にとって、目先の利益・・これが大事なのはわかりますが・・で職場復帰に対処した場合、職場のメンタルヘルスを更に悪化させる恐れがあるというわけです。そういうわけで、社会経済生産性本部メンタル・ヘルス研究所の小田 晋所長は、職場に対し「責任ある寛容の精神」を求めているのです。
C発病者が増えても、職場復帰できる対策や治療法は?
そんなものはありません。というのはうまく職場復帰できるような職場なら、病気の発病そのものが限りなく少ないはずです。職場のうつ病やパニック障害は、カラダの病気とは違って、発病の仕組みそのものが職場復帰の失敗や再発をもたらすのです。安全配慮義務に乏しい管理職や経営者の職場では、雨後のたけのこのように発病が続出し、発病していない人のワーキングパワ−までもすり減って、発病予備軍となる悪循環が生まれます。だから予防的な対策が決め手なのです。
D再発を防ぐための個人の対策は?
実は薬の飲み方がとても大事です。はっきり言って薬の量は別にして、2〜5年くらい飲み続けた方が良いのです。胃潰瘍やアレルギー性鼻炎の治療と同じですね!
今のビジネスマンの方にとっては、職場復帰してからが試練で、二年以内の再発を防ぐことがポイントです。ストレスの存在は避けられません。再発のリスクが高いという前提で、割り切って飲み続ける方が賢いのです。
副作用が心配!
というお気持ちは良くわかりますが、SSRIのような最近の薬は安全です。薬に頼るのはいやだと言う思いも理解できますが、主人公は患者さまで、薬は手段なのです。むしろ副作用・・・トフラニールなどの抗うつ剤は便秘や口の渇きなどをもたらしますが、これをよく理解すれば、「口が渇いている、トフラちゃん(トフラニールのこと!)、ちゃんと働いて私を守ってくれている」と安心できるのです。
次に、仕事に対する考え方を成長させることが大切!
とかくうつ病になりやすい人は、周囲に気を使って周りのためにがんばる、自分がいなければ迷惑をかけるという謙虚な心の持ち主が多いのです。これは素晴らしい個性であると同時に、がんばりすぎてワーキングパワ−を消費しすぎてしまうウィークポイントでもあるのです。
だから「職場のメンタルヘルスがとことんわかる本」には、ワーキングパワ−をたっぷり充電することが良い仕事をするための秘訣と書いたのです。年休をとったり、家に帰ったら家族とくつろぐことが良い仕事をするための条件、というか権利なのです。この点でも、うつ病になりやすい方は、ビジネスマンとしての当然の労働基準法というルールにもとづく権利=良いワーキングパワ−を維持する義務、に無頓着なのかもしれません。いや、そういう知識がないのでしょう。だから労基法や労働安全衛生法という大事なルールを勉強することも必要です。
結論をいえば、力まかせに仕事をするのはワーキングパワ−の浪費であって、自分の働き方にルールを持たせることが、再発を防ぐための最大のポイントなのです。
(2)どうやって受診をすすめるか?
@家族や、その人が信頼している人がすすめる
メンタルヘルスの不調に家族や友人、同僚などが気づいた場合、受診を勧めるのは
気が引けるかもしれません。メンタルヘルスに関する色々な誤解や偏見があるからです。
でも逆に考えると受診されれば半分は解決したようなもの。
ポイントは心配していることを率直に伝えることです。
「この頃、眠れていないようだし、だるそうな感じで心配です。心の不調かもしれないので
精神科を受診したらいいかもしれないね。」
A職場の上司がすすめる場合
個室で色々な悩みを聴いてあげましょう。
ただし一切、コメントをはさんだり励ましたりしてはいけません。
ふーんそうか(あいずち)、それから(促し)、などのコトバで聞き入れ、
時には「それは辛そうだな」などと,、ひたすら受容しましょう。
「そんなこと言わずにがんばれよ」「何弱気なこと言ってるんだ」などはタブー。
まして説教など論外。
ただ事実無根なことが出た場合、「ボクはそうは思わないけど、君がそれで悩んでいるのはわかった」
と応えるといいでしょう。
とりわけ体の症状を聴きだすとよい。
だるい、眠れない、食欲が出ないというのはうつ病のカラダの主症状です。
面談は1時間以内で切り上げましょう。
うつ病の方は集中力が低下し、長時間の面談は辛いのです。
「ストレスがだいぶたまっているようだね。産業医を受診したほうがいい。」あるいは
「専門医を受診したほうがいい。ストレス関係の専門医は神経科だとボクは思うよ」
など明確にいうことです。
ポイントはメンタルヘルスが不調であるかもしれない部下の悩みや問題点を解決することではなく、
受診の動機づけをすることです。
B受診を拒否される場合
躁病ではよくあることです。たとえば次のような接し方がよいでしょう
「病気かもしれないし、もちろんそうではないかもしれない。でもあなたを見ているととても辛そうです。
もし心の病気ならば今は良いお薬があって、とても良くなるそうですよ。お医者さんに診てもらった結果、病気でないというなら、それはそれで結構なことですね。」
受診したそうだけれど不安が強い場合、
「今は精神化の敷居もだいぶ低くなって、元気のなくなったビジネスマンは結構気軽に受診するそうよ。
なんなら一緒についていきましょうか。」
躁病の場合は色々理由をつけて拒否されることが多いし、怒られることもあるようです。
その場合爽快そうなふるまいをしていても、夜も眠れず疲れているのは間違いないから、体の症状に注目してとりあえず内科の受診をすすめるのも一法。 その先生に事情を話し相談にのってもらう。
ただしベテランの町医者がよいでしょう。大病院の場合、若いドクターで対応できないこともありえます。
最終更新日 2002年11月20日