管理職のためのメンタルヘルス入門



                      2002年5月30日 更新                     


発病者に対する具体的な対応策は、「講演でよく出る質問」を参照してください。
部下に受診を勧める方法などを書きました。
優れた上司の実例については素晴らしい管理職がいる!をご覧ください。       



目次

0)はじめに

(1)メンタルへルスに対する管理職の3つの誤解

(2)メンタルへルスは大競争下の経営に大いに関係する

(3)うつ病と自殺

(4)不安障害とりわけパ二ック障害

(5)ワーキングパワ一の消耗とストレス

(6)対策 メンタルヘルス対策は国家標準で

(7)真に生産性の高い職場とは?

付録 ミニメモ




(0)はじめに

 今、先を見越した民間企業は従業員のメンタルヘルス対策に乗りだしつつある。それも当然の話で、この激変する大競争時代のビジネスには何よりも従業員の資質が大切となるからである。今よりも産業界がずっと牧歌的だった時代には、「自分の健康は自分で管理しろ」「病気になったのはその人の責任だ」などと暢気なことを言っていれば良かった。もちろん、そういう自己責任論はある範囲内では有効であるが・・・安全配慮義務が厳しく問われる現在、安易なものの見方をして会社に打撃を与えてはならない。

 ほとんどの生活必需品が中国で生産されるようになり、多くのモノやサービスの供給にジャストインタイムを求められている産業界で、多くの企業が生き残りをかけて、経営資源の選択と集中(やや古い表現だが)の発想のもと「リストラ」を行い、「成果主義」をはじめとした新しい賃金体系を導入し、「非正規雇用」を重用する雇用の流動化を図っている。
いまここで必要なことは、これら生き残りをかけた対応策の作用と副作用の両面を冷静に見すえることである。簡単にいえばメンタルヘルスの悪化はこれら大競争時代への対応策の副作用の面である。それはあたかも、重い癌に対して、医者が良かれと思って使った抗がん剤のため、患者の食欲がなくなり、かえって衰弱させてしまうのと似ている。

 別な表現をしよう。企業や職場をクルマにたとえてみる。競争のためこれらの対応策でクルマをチューンナップしたクルマに乗って大喜びでアクセルを吹かすようなものだ。みな必死でレースにのぞんでいるため、いつしかクルマは自分の思いどおりに動くと思っている。ある程度までは動いていくのだ。人間の能力の可能性、柔軟性はすばらしいものであるから。しかしある時点でクラッシュする・・・・それがメンタルヘルスの悪化であり行き着くところ自殺である。



(1)メンタルへルスに対する管理職の3つの誤解

・自分には関係ない(NO)
〜病気は心の弱い人がなるのではない。あなたも例外ではない。
〜治らない病気ではなく、治せる病気である。

・仕事には関係ない(NO)
〜産業保健婦や産業医などの専門家の仕事にとどまらず、生産性を高める上で大切なテーマである。
〜訴訟などへのリスク管理だけでなく、利益に関係することである。

・個人の問題だから、自己責任が重要(NO)
〜自己責任だけではなく、経営者や管理者の安全配慮義務が重視される。



(2)メンタルへルスは大競争下の経営に大いに関係する
・創造性
・生産性
・利 益 プラスの利益とマイナスを減らすメリット

注意)
・職場の安全と健康に対する投資は2.4倍の効果を生む。
・メンタルヘルス対策を、産業保健スタッフによる「医学的な対応」であるとか、自殺への対処のような「リスク管理」という狭い観点でみるよりも、生産性の向上というビジネス本来の視点に立つほうが結局は奏功する。そういう意味では、何よりも社会経済生産性本部メンタル・ヘルス研究所の発想が大切である。

優れた事例 
ある優れた管理職の意見;スタッフの健康と生産性に注目した!
とかくメンタルヘルス対策というと、事例を示して「こうならない対策」という発想がほとんどである。
私はそうではなく、うまくいっている事例に学ぶことが最適と考えている。
部下の健康に配慮することイコール職場の生産性、活力向上ということを実証した職場について提示する。



(3)うつ病と自殺

<ごくありふれた、死をもたらす病気>
・交通事故の4倍弱の自殺
・一生のうち女性の4人に1人、男性の7人に1人はうつ病にかかる。
そういう意味では確かに心の風邪である。しかし風邪がこじれて肺炎となり、時には呼吸不全で命を失うことがあるように、うつ病は死にたくなる病気で、自殺という不幸な結果をもたらす。
自殺のほとんどはうつ病を中心とした心の病気になり、正常な判断力が失われて起こる。つまり、正常な精神状態で「覚悟の自殺」をするというのは、例外中の例外である。自殺のほとんどが心の病によって起こるとなれば、理屈の上では自殺は予防できるはずだ。

そしてうつ病はきちんと治療すれば完全に治る病気であり、その時には人間が一回り大きくなっている。優等生が一皮むければ怖いものはないのだ!


<うつ病の病前性格>
周りに楽をさせる働き者の優等生

10人の職場で、2人はダメ、6人は可もなく不可もなく、2人は人の倍働く。うつ病はこの働き者に起こる。

ウソがつけたり、平気でドタキャンできる人間はまずならない。


テスト

1)38度くらいの熱で仕事を休む事は、他人に迷惑をかけると思う
2)手抜きは嫌で、几帳面でコツコツ仕事する性格だ
3)周りに気を使って、宴会などでは場を盛上げる方だ
4)仕事にはこだわる方で、まわりからわりと信頼されている
5)嫌なことでも断れないやさしさがある
6)他人(上司、同僚、部下)の評価を気にするほうだ


このうち3つ以上あてはまれば、立派なうつ病や過労死候補生でとても危ない!
完全主義で正義感あふれる優等生は、
ものすごく仕事をして周りを楽にさせてくれる職場では人望のある人

つまりキャラクターには光と影の両面があり、不利な性格などない
たとえば神経質は緻密で研究開発向きなのだ。
したがって心理テストなどで、うつ病になりやすい性格傾向の人間を職場からはずしていったら、どういう職場になるか? 


<症状>
仕事面 能率の低下
身体面 眠れない、食べたくない、だるい
精神面 意欲、気力の低下、仕事に行きたくない

町医者のうつ病診断
眠れない、食べたくない、だるい、そして仕事に行きたくなければ、これは立派なうつ病状態なのだ。

考え方の歪みがすすむ 
世界(職場と家庭)と自分自身そして過去、現在、将来を否定的に考える
「人生なにごとも塞翁が馬」とはまったく逆の発想になる。


<自殺志向の発展>
・他罰的 〜 自罰的 〜死は悪いものではない
・最終的な解決、逃避としての死
・大原則!  「死ぬ」という人ほど死ぬ

死のほのめかしは、絶対に決して軽視してはならない
軽くても自殺未遂は警報!

死の直接、間接表現
会社(=人生)をやめたい
自分に何かあったら・・・



<対応>
励ましはタブー
内科の病気と同じに接する
大丈夫? どうしたの?

<カウンセリングマインド>
傾聴(文字通り耳を傾けること)のもとに
あいづち、おうむがえし、まとめ



(4)不安障害とりわけパ二ック障害
うつ病と並んで多い心の病であるが、この病気で死ぬことはない。きちんとした診断を受けて、薬をしっかり飲めば治るという点で内科の病気のようなもの。
 
<症状>
突然、死んでしまいそうな恐怖心をともなった
主として 胸の苦しさ プラス

のどのつまり、胸の苦しさ、動悸、手足が冷え、冷汗
めまい、気が遠くなる、気が狂いそうな感じ

<きっかけ>
慢性疲労状態を土台に何かの引き金で発病
心理的ストレスとは限らない

<考え方の歪み>
すべてのことがらを身の危険と解釈
年中、心の中で警報がなりっぱなし



(5)ワーキングパワ一の消耗とストレス

拙著より

(6)対策 メンタルヘルス対策は国家標準で
厚生労働省の指針に、各企業がとるべき対策の基本が示されている。
しかし、そういうシステマティックな対策はともかく、現場の指揮官が心得るべき原則は何か?

@時間管理は万能の特効薬

A人間の心を痛めてはいけない
 少なくとも言葉の暴力はやめよう。
「売れないやつは、そこから飛び降りろ」・・・本当に死んでしまった!




(7)真に生産性の高い職場とは?

再びある職場長の経験に学べば、それは安全で健康な職場である

管理職の責任として部下に対する安全配慮義務がある。

安全配慮義務とは
 事業者は労働者(公務員を含む)の生命、身体、健康の安全を保護すべき法的な義務がある、というのがいわゆる「安全配慮義務」。メンタルヘルスヘルスの分野では、電通の過労自殺裁判の最高裁判決(ここをクリック)でも明示されているもの。 これに違反して従業員の生命、身体、健康の安全を損なえば損害賠償ということになります。しかも最高裁はかつての判決で「危険が予見可能である限りは、事業主は具体的な結果を回避する措置を回避する処置を講じなければいけない義務」までも求めている。これは事故だけでなく病気もあてはまる。万全の処置とはいかないけれど、およそ危険が予測可能な事例は、万全の処置を講じるに近い限りの形での「安全配慮義務」が事業者に求められるようになってきている。

管理職は
「職場のメンタルヘルスがとことんわかる本」の
62ページ ワーキングパワ−の不思議な性質、は管理職の必読部分


<町医者の経済界への疑問>
睡眠時間が4、5時間で良い仕事ができるのだろうか?
ビジネスに必要なのは精神論ではなくて、サイエンスではないだろうか?
太平洋戦争を振り返ってみよう

さらに勉強したい熱心な管理職は社会経済生産性本部メンタル・ヘルス研究所の提言を読もう。


ミニメモ
・過ぎたる飲酒は眠りを妨げる
・精神神経疲労は、ゴロ寝では治らない、スポーツなどで体を動かせ



                       著作権 鈴木 安名

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