管理人の見解 職場のメンタルヘルス2002年上半期

 

                            2002年6月22日

 

 

 

 

 

1.職場の自殺予防


 2月18日に中央労働災害防止協会主催で「心の健康づくりシンポジウム」が開催されました。東京都精神医学総合研究所の自殺予防の権威、高橋 祥友先生が「自殺予防マニュアルの活用方法」について講演されました。職場の自殺は減るどころか、ますます身近なものとなっています。

 

 

1)自殺の現状

ある県の職場では、3年連続自殺者ゼロが昨年度から一気に6名となりました。リストラを進め大競争に勝ち抜こうとしている著名な輸送機の会社では、管理職や開発部門のエンジニアの飛び降り自殺が続いています。

とはいえ、「自殺は個人的で微妙なものだ」、「職場で触れるべきではない」、「うちの職場には関係ない」などと、職場のメンタルヘルス以上に古い考えが定着しています。ある民間企業での経験ですが、社員の自殺が影響して、2名が心の病気を発病し休職しました。

 

 

2)自殺の前触れ

これについては別ページをご覧ください

 


3)個人的な理由の背景にあるもの

 みかけの原因は男女の愛情問題のように見えても、多くの自殺はうつ病になることで起こります。そして、うつ病は長時間勤務によるワーキングパワ−の消耗を土台にして起こるのです。うつ病の患者さんは、現在ばかりか、未来に対しても否定的な見方をします。恋愛についても、否定的になっても不思議ではありません。ワーキングパワ−の消耗と職場のストレスが繰り返され、うつ病になったのに、自殺の直接的なきっかけは愛情問題であることも少なくないでしょう。

 きっかけは私的な理由であったとしても、背後には多かれ少なかれ職場のストレスが横たわっているのです。
ですから故人を一面的にみるのは、いかがなものでしょうか?

 

 

2.メンタルヘルス対策はリスク管理か?

 メンタルヘルス対策を、もっぱら危機管理としてとらえる見方が急速に浸透しています。企業にとっては、自殺にいたるメンタルヘルスの悪化は、確かに危機管理の対象です。けれど短絡してしまい、厚生労働省の職業性ストレス簡易評価表でやたらに社員をチェックする動きもあります。 

        まず産業保健婦などがストレスの点数が高い社員を呼び出し、面談で受診やカウンセリングなどを勧める

        その際、面談内容をあたかもカルテのように文書にして保存しておく

        こうすれば万が一の訴訟の際、安全配慮義務を果たしたと弁明できる

 

 という中身です。スマートに見えますが、安全配慮義務をどう逃れるかの工夫に過ぎず、職場のストレスへの対処は抜け落ちています。そういう職場、職場のストレス濃度が高いところでは、うつ病や自殺のリスクも高い(だからリスク管理の面もある)。 当然のように、生産性は低下して、ミスも増えて、商品の欠陥が増えているのです。そしてストレス濃度を減らす工夫をしないで、社員にたいしミスを減らし、欠陥が起こらないように厳しく労務管理を行えば、それが更なるストレスになって悪循環をきたすでしょう。前述の製造業は、そういう悪循環に陥っています。

 

心の病気の予防にも1次、2次、3次予防があって

残業を減らしたり、年休を消化するようなものは1次予防

職業性ストレス簡易評価表などで、リスクの高い人をチェックし、受診を勧めるのは2次予防

職場復帰の際、再発しないようにするのが、3次予防

 

実はその前に、0次予防というのがあるはず。

それは合理的な労働編成、指示命令系、理にかなった労務管理などがあるのです。とりわけ理にかなったマネージメントは職場の生産性を向上させて、しかも自然なメンタルヘルス対策ともなるのです(いまそこにいる優れた上司 参照)

不思議なことに

0次予防に近いほど生産性に貢献しカネはかからないけれど、発想の転換が求められて受け入れられにくい。3次予防に近いほど、リスク管理になって後始末めいた対策で、かなりのカネがかかるけど理解されやすいといえます。

いずれにしても中央労働災害防止協会によれば、社員の健康への投資は2.4倍もの投資効果があるのです。

 

 

3.労働安全衛生活動のポイント

すすんだ企業や労組は労働安全衛生法にもとづいて、「職場の安全と健康を守るとりくみ」をしていることでしょう。

 

ここで、ある単組の盲点を紹介します。

 

 ある事業所では10年以上も前から、労組が先頭にたって職場の安全と健康を守る活動に取り組んできました。その結果、健康診断の充実、保健婦の配置実現、講演会による知識の普及など相当な改善がなされてきました。でも職場の在職死、とりわけ自殺が増えてきているのです。

 
 その単組には労安活動上の弱点があって、労働安全衛生のポイントとなる、3管理(作業管理、作業環境管理、健康管理)、1教育のうち、前半の視点(残業削減や年休消化などの作業環境管理)が不足しているのした。労組の中で役割分担が進むのは良いのですが、専門化の弊害が生じていました。労安担当者はまるで産業衛生スタッフのようになってしまい、組合員に対し「健康管理の自己責任」を強調し「指示通り、ちゃんと再検査を受けなさい」というような指導ばかりをやっていたのです。アンケート式のストレスチェックを通じて、受診やカウンセリングを勧めるのは、もっぱら個人に対するアプローチ。

 

川上憲人先生は産業衛生学会雑誌2002年5月号で、「個人向けのアプローチの効果が一時的、限定的であるのに比べ、職場環境などの改善を通じたアプローチがより効果的であった」というKarasekの見解を引用しています。このことを踏まえて、労働組合の原点である、「時短、要員増」の主張は、現在のような激しいリストラ時代に、一見時代遅れ(笑)のように見えますが、実は根本的な職場環境改善なのです。労組がこれを主張しなくなったら、おしまいです。

 

管理人は、小さな病院の経営者だったこともあります。
個人の立場からいえば妥当なことでも、経営者という立場では、口が裂けてもいえないことがあるのです。それを敢えて主張するのが労組の立場というもの。「時短、年休消化、要員増」という、今では時代遅れのような主張、視点こそが必ずや、その事業所のためにもなり、大競争時代を真に生き抜いていく知恵となるでしょう。


 10年後にそれが実証されることでしょう。もちろん10年先のことなど考えない経営者は多いでしょうが、こういう世の中だからこそ先を見越す経営者や、その後継者が必ずいるはずです。

 

4.労働安全衛生は国家基準で

「時短、年休消化」など、一見時代遅れ(笑)の主張をする際、厚生労働省の通達(リーフレット)をぜひとも活用しましょう。

 

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