「産業人メンタルヘルス白書」 について

 

                                         2001年9月18日

 社会経済生産性本部は、8月29日の第23回メンタルヘルス大会で、155ページにわたる「産業人メンタルヘルス白書 2001年版」 を発表いたしました。 Web上(http://www.jpc-sed.or.jp/)でも要約が見られますが、白書には、はるかに豊富で貴重な見解と提言が盛り込まれています。 私の読んだ範囲で紹介いたします。

@メンタルヘルスは依然悪化傾向にある
 白書によれば、産業人(勤労者)のメンタルヘルスは依然悪化傾向にあるという、長期トレンドとしての傾向に変化はないとのこと。
 心理面では「変化を望まず、真面目さや粘り、活動的に振る舞おうとする活力が徐々に希薄化して、自己を抑制し、心身に無理をして職場環境へ適応する姿が明らかにされています。 最近5年間の産業人心理の変化(1996〜2000年度 50万サンプル)は以下の通りです。

1.産業人は、将来への希望を失っている。
2.身体面、精神面の健康度も、悪化している。
3.活力と関連深い尺度も、悪化している。
4.職場適応に関する尺度は、わずかに好転している。

A人権の視点
 拙著「職場のメンタルヘルスがとことんわかる本」で書きましたように、身体の病気の場合と比べて、心の不調をともなった社員・職員が受診しにくい大きな理由の一つは、なんといっても人事考課のためですね。大リストラ時代にあってはなおさらのことです。   
 メンタル・ヘルス研究所小田 晋所長は次のような提言をしています。

「・・・精神障害者を職場から排除することが慣例であるとすれば、誰しも病気を隠そうとし(疾病隠匿)、そうなれば健康管理は困難になる。精神障害の従業員に受診勧告を行い、それに従うことが有利であることを保証し、さらに復職を段階的に行うための内規を作り、その運用・適応のため「メンタルヘルス委員会」を設けることが勧められる。この委員会はメンタルヘルスの啓発活動のためにも有益である。」
 
 きちんと医療を受けるならば、その期間の人事評価は猶予=モラトリアムとし(
責任ある寛容の原則)、その後も、医療を受けたことを理由に不利な処遇をされないか、あるいは本人の希望を考慮して適正配置を行うべき原則(不利なき正義の救い)を提示しています。

 大競争時代の情け容赦のない大リストラの中で、このような見方を貫くことはとても大変です。
事業所によっては、事実上、身体の疾患であっても、その管理状況によって配置転換、時にはリストラそのものがなされている程です。 
 でも、こういう時代だからこそ、産業人の人権・・・
メンタルヘルス権とでもいいましょうか、生存権の1つでしょう・・・を主張する原点が実にウレシイ。 筆者のような町医者にとってはホント励まされますネ!

B労働組合のメンタルヘルス活動への参画を  
 第4章に連合 雇用・労働対策局 次長 中桐 隆郎氏が「労働組合にとってのメンタルヘルス」を執筆されているように、白書では労働組合のメンタルヘルス活動への参画を重視しています。末尾に「変革する労使関係のなかで、組合の存在意義を担保する有力な手段になるであろう」と興味深い指摘がなされています。  

 この点は、拙著
「職場のメンタルヘルスがとことんわかる本」で既に強調したことです。また拙著では、不幸にして労働組合がない、あっても機能していない職場では、どのように対処すべきかのヒントが書かれています。お読みいただければ幸いです。

 以上のように職場のメンタルヘルスに関心を持つ方々にとっては、今後も生産性本部メンタル・ヘルス研究所の提言には注目! といえましょう。

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