1)「試し出勤」とは
先日ある自治体の復職のプログラムを聞いて驚きました。
「試し出勤」といって、休職期間中に、短時間の出勤をさせて回復状況を上司が点検、評価するというもの。休職期間中なので、当然無給だし交通費の支給もない上、公務災害の保証もないのです。これらの点を、本人が同意しているという形式を示すために、本人だけでなく家族までもが署名捺印させられるのです。
この「試し出勤」を体験した職員は、復職が認められない中での出勤は大きな負担で、上司から点検・監視を受けているようでエネルギーの消耗が激しかった、という感想を述べています。十分な検証はなされていないものの、この制度が導入されてから、スムースに復職できた事例が減っているそうです。
2)それ自体が心への負担
うつ病など心の病を克服していく上でのポイントは十分な休養、休業と段階的な職場復帰ということはすでに述べました(「職場のメンタルヘルスがとことんわかる本」31〜34ページ)。
療養期間はワーキングパワーの充電が不十分な時で、ささいな事が職員に心の負担となることがあるのです。職場復帰の正道は、十分な休養期間の後、復職し半日勤務などの勤務軽減措置とることです。
復職後の勤務軽減の制度を「慣らし出勤」という自治体がありますが、復職前の「試し出勤」と復職後の「慣らし出勤」は字面は似ていても、似て非なるもの、メンタルヘルス初心者は要注意!
「試し出勤」を是とする立場として「地方公務員 メンタルヘルス対策研究会報告書」の考え方があります。
その一部を引用しますと・・・
「復職ではないため仕事の負担がなく、本人のペースで行えることが利点といえる。また、職場の側からも、本人の状況を実際に把握することができ、受け入れ側の復職への不安を軽減することができる」 (田中知惠子、職域看護の現場におけるメンタルヘルス対策 同報告書41ページ)。
うつ病の回復期の患者さんに、「復職したいのなら、職場にいる同僚の不安を軽減するように気配りしろ」と求めているわけで、再発リスクを高めているようなもの。場合によっては安全配慮義務違反に問われる恐れもあります。
自治体管理者はもっとメンタルヘルスの勉強をして欲しい。
さすがに、同報告書の108ページでは、「『試し出勤』を実施することで職務遂行能力の判定がより慎重に行われることは期待できるが、現状では困難な課題も多い」と書かれています。
しかし困難な課題が多いというのに、各自治体で、なし崩し的に導入していく傾向があって筆者は心配です。
3)「試し出勤」のコンセプトは選別試験 ?
復職後の勤務軽減の措置(慣らし出勤)には、職場への再適応を支援していくという積極的な意味がありますが、「試し出勤」の「試」の字は文字通り試験であって、職員は敏感にそれを感じるわけです。
復職に比較的近い時点は、回復途上の時期で、まだ脆さが残っています。うがった考え方をすれば、「試し出勤」の時点でプレッシャーをかけることによって、管理者がさまざまな影響力を行使することができるわけでフェアではありません。リストラしようと思えばいくらでもできるのです。
民間企業ではこんなモノきいたことありません。
皆さん、ぜひこの「試し勤務」という習慣について考えてみましょう!
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