メンタルヘルスと体の症状

            2002年8月15日

 

猛暑の中、いかがお過ごしでしょうか?

このページでは、心療内科医の目線から、メンタルヘルスが不調になったときの体の症状について説明します。

 

1.はじめに

ビジネスパースンの病気をカラダとココロ、二つの面から分けて考えることは、確かに便利です。けれど心身一如、心身相関などといわれるように、カラダとココロの動きや働きは切ってもきれない関係にあります。

青年男女は、よく「チョーむかつく!」といいますね! これはとても腹が立ったとか、頭にきたときに使います・・・・注意!・・・この2行で人間の心の動きと体の関係が、よく現れているのです。

<他人の言動を見て、とても不快な気持ちになる> ⇔ むかつく(胃)、腹、頭


 

ほかにもいろいろな表現があって、

「断腸の思い」

「目が回るほど忙しい」

「耳の痛い話(指摘)」

「胃が痛くなるような話(できごと)」

「胸の悪くなるような話(できごと)」

「心配で、胸が早鐘のようになった」

以上のように、ストレスに遭遇したときの内臓の動きが良くわかるでしょう。

また良いストレスだったら、こうなるかもしれません。

「(憧れの女性から話しかけられて)、胸ドキドキ!」

矢田亜希子に見つめられたら、くらくらするだろう!(笑)」

 

ここでのポイントはストレスと胃の症状(はきけ、痛み)、心臓の動き(動悸)です。


 

2.うつ病の時の体の症状

「職場のメンタルヘルスがとことんわかる本」でも書きましたように、職場のうつ病では、初期には心の症状よりも体の症状が先立ちます。職場では、自分の心の動きをあからさまにするひとは、ほとんどいません。よく、メンタルヘルスのマニュアルなどのチェックリストで「急に不満を言うようになった」とか「弱音を吐くようになった」などとでています。こういうのはメンタルヘルスの不調がかなり進んだ状態です。また心の症状を聞きだすことは、警戒感を招くため技術と経験が必要です。家族やよほど親しい人ならともかく、産業保健スタッフでも社員、職員の心の状態を知ることは難しい。だから体の症状がポイントになるのです。

 

うつ病の身体症状トップ4  眠れない、だるい、食べたくない、頭が痛い

 

これらがほぼ同時におこって「仕事に行きたくない」とか「死んでしまいたい」という心の動きがあれば、うつ病と考えてほぼ間違いないのです。また社会経済生産性本部メンタル・ヘルス研究所の調査結果では、上場企業のビジネスパースンの5.5%(もちろん健康に働いている社員が対象)に「死にたいと思うことがよくある」という自殺志向がみられ、そういう人々に特徴的なのは頭痛・・・「ときどき頭がきつくしめつけられるような気がする」なのです。

 

 事例 うつ病と頭痛、34歳男性、製造業

A氏は数ヶ月続く頭痛を訴えて、ある病院の夜間診療を受診しました。
はじめは総合病院の内科を受診して、頭のCT検査を受けたけれども異常なし。鎮痛剤をもらったけれども良くならないため、脳外科を紹介されMRI検査を受けても異常なし。「緊張性頭痛」といわれ、鎮痛剤と筋肉をほぐすお薬をもらいましたが、すっきりしないため心療内科を受診したのです。

A氏は130人ほどの金属加工の会社に勤めており、ここ9年は製造ラインの仕事でした。最近、会社が業績不振のため、早期退職がうながされて40〜50歳代のベテラン社員があいついで辞めていきました。A氏が担当するラインは、工場内で製品数が一番多い部門でしたが、とうとう彼がスタッフとしては最年長になってしまったのです。正社員なのでパート社員の指導、教育をはじめとしたマネージメントがあるのです(スタッフのマネージメント)。

 また会社が予想していなかったベテラン社員までも何人か早期退職に応じたました。そのため残ったA氏が、急に最終工程の品質管理という重い責任をになうことになったのです。それが5ヶ月前でした。夜9時近くまでの残業自体は慣れていましたが、製品の品質を点検するチェッカーという装置を扱うのはストレスだったようです。作業自体は色々な表示板にでてくる数字の監視で、単純な仕事でした。けれど、最後のチェックなので、ここを通ればユーザー企業に納入されてしまいます。製品の欠陥が見逃されたら、クレームどころか会社は最悪、ユーザー企業に対して損害賠償をしなければならないのです。

そんなわけで上司の要求は高く、4ヶ月前から何ともいえない頭痛が始まったのです。

A氏はご自身の感情をほとんど表さず、医師から質問されてはじめて答えるという感じでした。

ほかにも眠れない、とてもだるい、食事がおいしくないという症状もありました。不眠症について、ご本人は「子どもの夜泣きのせいだ」と思っていたそうですが・・・。

さらに、問われると「会社に行きたくない」という気持ちが強くなっていたので、医師はうつ病と診断しました。幸い自殺したい気持ちは余りなかったため、SSRIという系統の抗うつ薬を処方すると、3週間後から頭痛は良くなっていき、2ヶ月を過ぎると完全に治ったのです。

 

解説 従業員の人数がメンタルヘルスと関係する、という社会経済生産性本部メンタル・ヘルス研究所の研究結果そのものの事例。「頭痛」がうつ病の主な症状。A氏のように身体の症状がめだつうつ病を「仮面うつ病」といいます。こういう頭痛は、鎮痛剤があまり効かないようです。

さらに「色々検査をしても異常がなかった」という場合、メンタルヘルスの不調を考えてみる必要があります。

 

3.不安障害の体の症状

パニック障害を中心とする不安障害も増えています。不安障害そのものが自殺を引き起こすことはありません。けれども、パニック障害の場合、こじれてしまうとうつ病が合併してくるので注意が必要です。パニック障害の症状については、のじょ太さんのホームページをご覧ください。


ここで不安といっしょに現れる症状を示しますと

 

心臓がドキドキする(動悸)

よく眠れない、嫌な夢を見る

冷や汗や手足の冷え

息苦しさ

口の渇き

めまいがするような感じ

のどが塞がったような感じ

吐き気

 

などの症状が現れます。さらに不安な気持ちに襲われて「いてもたってもいられない感じ」になることが多い。これらの。みかけはバラバラな症状は、実は交感神経が刺激されたときの症状です。

交感神経は「闘争と逃走」の時、はたらく神経です。病気ではない場合、脈拍が増えて、血圧が高くなり、覚醒度が増して集中力が高まり、食事を抜いても平気! という状態です。

皆さんも毎日、多かれ少なかれ体験しているのです。

めずらしく子どもの運動会に参加したお父さん。親子競争のスタートラインに立ったら、胸はドキドキ、口はからから、手に汗握ってしまうわけですね。こういうのは熱い汗だから良いのですが。


 

4.仕事にもクールダウンが必要!

 夜遅くまで、仕事をし続けていると、集中力を持続させるために体は交感神経を高ぶらせます。

人間は夜行動物ではないので、本来は夜になれば、副交感神経が強くはたらいて、脈や血圧が下がって眠くなるのです。つまり夜になれば交感神経モードが副交感神経モードに切り替わる必要がある。

長時間勤務のビジネスパースンの中には、夜遅くなっても眠れず緊張がとれないためアルコールに頼る人も多いのです。持ち帰り残業もたびたびになると不眠症を起こしかねません。仕事が面白ければよいのではありません。つい熱中したままになれば、覚醒度が高まって、「眠れないほど面白い」から「疲れても眠れない」になってしまい、後者はもはや病気です。

心の健康のためには、できればビジネスは家に持ち帰らない。持ち帰ったとしても、けじめをつけて少なくとも眠る2時間前からは、お風呂に入ってリラックスするなど、心をクールダウンする必要があります。


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