パニック障害が増えている!

                                    教師のメンタルヘルス

                               2001年11月1日


最近パニック障害が増えてきました。 職業に関係なく。

 米国同時多発テロとそれへの報復攻撃、不安と恐怖(まるで火星の衛星名です)をかきたてる世相を反映していますね!「職場のメンタルヘルスがとことんわかる本」の補足として、教師を事例にあげて、あわせて教師のストレスを分析してみました。

(1)毎日が息苦しい!

   都内の小学校で講師をしている26歳の女性Aさんは、朝目がさめた時、「ああ、また学校か! 何かあったらどうしよう!」とため息をつく毎日を過ごしています。

*講師というのは産休や病休中の教員の替わりに勤務する、いわばピンチヒッターの先生ですが、せいぜい1年の契約で非常勤の身分です。

  講師とはいっても、子どもに対する教育のレベルや責任は常勤の教員と実態は同じです。
  先生は休みがたくさんあっていいね、というのは大間違いで、授業以外にも校務分掌といって運動会や学芸会、修学旅行などの行事の準備がすごいのです。家に帰っても、夜や朝に不登校や病気がちの子どもの親から相談の電話もあります。独身で実家に生活するAさんにとって、母親の気持ちは実感できないけれど、毎日が真剣勝負でした。

  9月に新学期が始まったある朝、職員室での朝の打ち合わせの最中、急に胸が苦しくなり息が吸い込めなくなりました。苦しみもがくうちに、手の指や唇が冷たくこわばり、気が遠くなっていきました。救急車で大病院の救急外来に運ばれて血液検査や心電図をとられました。とても痛い注射を肩にうたれた上に、紙袋を口にあてられたのです。やがて呼吸は楽になり、手足も暖かくなってこわばりも取れてきました。

  死ぬほど苦しかったというのに、若い医者の説明はそっけなく、「命に別状はありません。検査は異常なしで精神的なものです。心療内科を紹介します。」というもの。紹介状をもらうと看護婦に追い立てられるように、救急室を後にしました。 その日以後、ノドのあたりがふさがったような感じがして、ため息ばかりでる。寝てもすぐ目がさめ動悸がし、またあの発作がおこるのかも、と考えただけで息苦しくなるのです。心療内科を受診するとパニック障害と診断され、2〜3種類の薬が出されると症状は軽くなっていきました。

  夏休み明けは、すっかり生活が乱れた児童を相手に声を張り上げることになり、運動会も待ち構えています。どの仕事から片付けようかと焦るけれど、ふと気づけば夜の12時近く。お風呂に入って安定剤をのんで寝るだけ。職場に気を使って日中は休めず、夜間診療を受診していました。というのも校長(女性)から、「学校に救急車を呼ぶなんて、どういう健康管理をしているのよ!」と説教されたからです。

  その校長は非常に細かい上、威圧的な人でした。何かの書類を提出すると、あれこれ細かなミスを指摘されて叱られるのです。一番嫌なのは「貴女ちょっときて」と校長室に呼ばれること。校長は戸を全部閉めてから差し向かいで、「教室がちらかっている、生徒の反応にちゃんと答えていない、何ページの教え方がよくない」などと事細かに説教するのです。うつむいて、時が過ぎるのをただ待つしかありません。そんな晩は辛くて眠れなくなります。それは何もAさんが睨まれているからではなく、教頭以外のどの教師にもあてはまりました。

  Aさんは誰かに自分の名前を呼ばれただけでドキっとするし、ごく小さなミスでも「どうしよう、どうしよう」と焦って不安になります。いつまで講師という不安定な身分が続くのかと思うと、これも心配の種でした。中年過ぎまでずっと講師の人もいるのです。だからといって文句はいえず採用試験に合格できない自分を責めるのでした。

  その学校は、ほとんどがベテランの女性教師からなりたっていました。Aさんばかりか後から赴任してきた校長や教頭の厳しい管理に対して、全員がピリピリしと緊張感を高めていました。いつしか教師のグループが3つほどできていました。どのグループも自分たちの今までのやりかたを校長に否定されていたため強い不満を持っていましたが、互いに陰で愚痴をこぼしあうという共通点だけで成り立っていました。

  各グループがAさんに仲間になれと誘いますが、グループに入るのは嫌でした。というのも年若い講師という身分では、一方的に愚痴を聞かさるのは解りきった話です。Aさんが校長室に呼び出された後など、何を言われたのかと根掘り葉掘り聞かれるのです。その上、昼休みともなればグループごとの教師間で、「今日は誰それが、校長室に呼ばれて、何々といわれた」というような内容の携帯電話のメールが一斉に飛び交うのです。まるで女子高校生のように携帯電話をあやつる先輩教師の姿は、異様を通りこして滑稽でした。

  そんなわけで、Aさんは苦悩を分かちあう仲間もなく「ああ、今日も学校嫌だな」と思いつつ、恋人をさがす時間もなく、精神安定剤に支えられて出勤するのでした。

(2)パニック障害とは
  うつ病に次いで増加している現代病が「パニック障害」です。突然の呼吸困難や動悸に襲われ、手足の先がしびれる発作を繰り返す心の病気で、内科では過喚起症候群、心臓神経症などとも呼ばれます。その他の身体症状として、冷や汗、吐き気、手足の冷え、のど詰まり感があります。

 救急車を呼ぶほど苦しく死の不安におびえるような症状が数分から30分ほど続きます。病院に搬送され心電図などをとっても、検査で異常はでない。しかし、呼吸が速く血液中の炭酸ガスが減り、血液がアルカリ性になって手足の先がしびれ硬直するので、よけい不安になってさらに呼吸が速くなる・・悪循環が起こっているのです。

 このため治療は抗不安薬(精神安定剤)の注射をして、血液中の炭酸ガスが増えるように紙袋を口にあてて、吐いた息を吸い込むようにします。この発作で強い苦痛を体験すると、またあの発作が起こるのでは、と恐れるようになります(予期不安)。最近はうつ病とパニック障害とが混ざった方も増えています。抗不安薬やSSRIというある種の抗うつ薬が特効薬です。内服薬で基本的には抑えられますが、必要かつ十分な量をきちんと服用することが大事です。それには患者さん自身が、それぞれの薬の副作用を知ることも大事ですが、効能効果や効きかたの特徴をよく理解することが大事です。


 最近、軽症のパニック障害の方が増えています。救急車を呼ぶほどひどくはないけど、たびたび息苦しくなって、レントゲンや肺機能などの検査をしても当然異常はないのです。またうつ病を合併するかたが増えており、うつ病の知識も大切です。

優れたホームページがありますのでぜひご覧ください。
パニック障害克服(?)の道のり http://www5a.biglobe.ne.jp/~ka-mi/panic.htm


(3)社会的な背景 
  Aさんの場合、ストレスは、はっきりしており、女性の校長の厳しく細かな管理です。
管理というものにはある程度の厳しさが必要ですが、度をこすとスタッフのモラルばかりか生産性までもが低下するという法則があります。この校長の管理手法は、古いコミック「巨人の星」風で我流のようです。

それはともかく、なぜ校長はこうも厳しくなるのでしょうか? 

それは彼女の人柄や、管理学に無知なせいだけではありません。

  都内では学校の管理職の給与や待遇が成果主義(
くわしい解説はここをクリックとなっているのです。簡単にいえば校長たちは通信簿をつけられ、点数ごとに給与や地位が決まっていくのです。公務員には勤勉手当というお金が支給されていますが、このお金から一律1%が差引かれプールされます。

  そして校長、教頭先生方は仕事ぶりに対して、上から5段階評価の通信簿をつけられるのです、それも相対評価で。

  1位には最高6%増、2位には最高2.5%増の勤勉手当がご褒美として支給されます。当然3、4位は支給されないし(つまり1%減)、最下位の5位からは罰としてさらに5%が削られるというキビシイもの(6%減)。

  だから管理職の校長、教頭は必死になって平教師に「研究授業を年に何回せよ、行事で事故はおこすな、何より子どもの点数を上げろ」などとプレッシャーをかけてくるのです。結局、こんな賃金制度になって教師が生徒化してしまったのです。

 嗚呼、日本の教育界の将来は如何に! と筆者は心配しますが、自分はただの町医者であることに気づくのです。


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