@ 死ななくてもよいのに、うつ病で自殺する経営者が多い

企業経営者、とりわけ中小企業の経営者の自殺が増えています。
不況はケタはずれで、銀行の貸し渋り、貸し剥がしは日常茶飯事です。その上、不正な高利金融も多くて、今や駅前は消費者および商工クレジット会社の看板ばかりです。今や日本は完全な弱肉強食の国になってしまいました。わが国は失業率が高いほど、自殺と離婚が増えるという、セーフティーネット*と社会保障のお粗末な社会です。

*ドイツなどでは失業保険の給付期間が2〜3年もあります。

日本の中小経営者の場合、国民健康保険での傷病手当給付金がないので、いわば休業補償が存在しないのです。

「こういう経済情勢だから経営者の自殺が増えるのも仕方がない。」と考えたら、はいそれまでヨ!
 厳しい経営下でも、「どっこい生きてるぞ、今に見ていろ!」という経営者がもちろん多数を占めています。
 一方、自殺の中には家族や友人からみて「死ぬほどの借金ではなかったのに」「めどが立ったというのに、なぜ死んだ!」という理解できないケースも多いのです。
結論をいえば、自殺した経営者のうち、4〜7割がうつ病になった結果、自殺を思いとどまる力や正常な判断力を失なって死を選んだと考えられます。

Aうつ病とはどんな病気?

 うつ病は誰もがかりうるごく普通の病気です。女性では自然に治る場合もふくめて、4人に1人が一生のうち一度はかかるほど。うつ病は仕事のし過ぎにストレスが加わって、意欲や気力を失う、いわば性も根も枯れはてた状態です。気力がすりへっているので人に会う気がしなくなる、集中力がなくなって仕事がうまく回らなくなり、商売上のミスも増えてきます。いわばガソリンが切れかけたクルマで遠出をするようなもの。熟睡できずに、あけ方に目を覚ますような不眠症(早朝覚醒)や、食欲不振、休んでも身体がだるいなどの身体の症状も付きものです。

 問題は、何でも自分のせいにして自分ばかりを責めたり(自責の念)、致命傷でもないのに悲観的になることです。「こんなに負債が増えたのも、すべて自分のせいだ。」「あいつにうっかりカネを貸して、裏切られたのも自分が悪い、もうお手上げだ!」などのように。やがて「解決策は死ぬことしかない」、「早く楽になりたい、永遠に眠るのも悪くはないかも」などと、死を願うようになります(自殺念慮)。

 うつ病は十分休養して抗うつ薬というクスリをのむことで必ず治りますが、家族の理解と協力が必要です。またうつ病の人を励ましたり、旅行や趣味などの気晴らしを勧めるのは禁物。なぜならエネルギーを使い果たした状態だからです。

B経営者のうつ病にたいする誤解

 別に心の弱い人がなるのではなく、商売熱心で几帳面、約束事には忠実、家族や友人に気をつかって、宴会などでは盛上げ役など、優等生やガンコなタイプの経営者がなりやすいのです。

 周りに気をつかうため、最後まで泣き言や愚痴をこぼさない人が多い。家族には「俺はもうダメかも」とか「自分に何かあったら生命保険で」などとポロっとこぼす程度で冗談めいて聞こえるだけです。ですから、経営者の「死のほのめかし」を絶対に軽く見てはいけません。冗談ではなく、「首に縄をかける前に、首に縄をかけてでも精神科に連れて行くべき」です。

 うつ病の人が落ちこんで見えるとは限らないし、自殺を考えている人だって明るくふるまえるのです。昔の武士が長い遺書を書いて覚悟の死を選んだようにではなく、病的な心理状態のもとに発作的に死ぬのです。したがって、「社長は、その日の仕事ぶりもいつもと変らず、遺書もなく死んでしまった!」ということが起こっても不思議ではないのです。
以上に述べたうつ病のほかに、大酒飲み(アルコール依存症)、や寝る間も惜しんで働くような経営者はワーキングパワーをすり減らし自殺の危険度が高いといえます。

C経営者は自分の心の健康管理をする責任がある

  
経営者というものは、従業員以上に経営者としての自己責任を感じているし、友人や親戚の保証をするような大きな負担もあります。そして常に「強者の仮面」かぶって弱さをだせない立場。だからといって人間の能力には限りがあり*、どんなに優れた人でも場合によっては心の病気になることを肝に銘じてください。
*拙著 「職場のメンタルヘルスがとことんわかる本」参照

 健康な心をなくせば良い経営はありえないので、経営者の自己責任として心の健康管理は欠かせません。家族や仕事上の重要なパートナーは役割は経営者をよく観察すること。前に述べたしるし、ふと弱音をはいた、死をほのめかしたとか食欲がなく眠れていないようだ・・・こういうのはうつ病であって赤信号! 精神科を受診してもらうべきです。


D今こそ中小企業経営者の自殺予防のとりくみを

 これからの経営者には、法律や金融の知識だけでなく、心の健康にかんする知識が不可欠です。商売ばかりか、命までつぶす事はないのです。まずは経営者自らがメンタルヘルス問題の意味を学習する必要があります。だからといって、これは個人では無理です。このホームページを中小企業の経営者の皆さんが見ていただけるなら別ですが。

 従来の産業メンタルヘルスは従業員や管理職を対象としたもので、経営者のメンタルヘルスについては研究途上でしょう。国家的な見地からの取り組みが求められます。また経営者の団体や共済組合は、経営者のメンタルヘルス対策を研究するべきです。政策的にはたとえば国や自治体は各地域の産業保健推進センターのマンパワーを抜本的に強めるべきでしょう。中小企業経営者が病気になった場合でも、安心して療養できるような、パフォーマンスのよい公的、私的の休業補償(保険)が求められます。
  
      トップページ に戻る                職業さまざま に戻る               
 
中小企業経営者もメンタルヘルスの知識を