異職種配転のストレス

                        「職場のメンタルヘルスがとことんわかる本」から

 普通、誰でも転職や失職のために職を探す場合、それまでの経験が役に立つ職種をまず求めるはずです。

異職種配転はみかけは今までと同じ会社で働くため、転職などと比べて負担は少ないと
思ったら大間違いです。異職種配転はもとより、異業種配転までが幅広く行われる
現代日本ですが、このことがメンタルヘルスの悪化に大きな影響を与えています。


 <新しい仕事を覚えながら人並みの目標をこなす負担> 

 新人時代を振り返ってみましょう。

上司や先輩から業務上のさまざまなノウハウをオンザジョブ、オフザジョブで伝授されただけでなく、マニュアルやビジネス書に読みふけって自己学習を進め、
失敗や成功の体験を通じてその仕事を円滑にすすめる自分なりの
コツやポイントを獲得していったはずです。

業務マニュアルや手引書には書けない、あるいは言葉や文章では表現できない、
自分にしかわからない技術(わざ)というものを長い年月をかけて蓄積していったはずです。

仕事は確かに楽ではありませんが、誰にも密かに誇りに思う職業人としての歴史があるのです。

 異職種配転ではこの技術と経験の蓄積を捨てなければなりません。

もちろん、世の中を生きていく知恵や私的な人間関係は継続するけれども、
それで仕事ができるわけではありません。

例えば本社の間接部門といっても人事と経理では全く仕事は違うのに、
異職種配転では、
たいていの場合は新人に対するような教育は提供されず、
自己責任による自己学習などが求められるだけです


これは非科学的な発想で、先に述べた業務上の技術と経験の蓄積には
時間がかかるという当たり前の事実が忘れられているのです。

 赴任する人は、新人に戻って一からやり直すと謙虚に発言するけれど、
同じ会社で共に働いてきたわけですから、周りは誰も新人扱いしてくれません。

そればかりか年齢=賃金に見合ったノルマの達成を1日も早く求められるのです。

ところが、本人は口には出しませんがミスや失敗をせぬかと新人同様に不安を感じている。
さらに歳をとった分、物覚えは悪く、自分より年下の社員から仕事を教わるなどで、
新しい職場の雰囲気になじむのに時間がかかり、それが大きなプレッシャーになってくるのです。


 その結果、それまで職業人として培われてきた誇りを失ってしまい、
焦り、ミスへの不安、自信喪失、周囲に迷惑を描けているのではないかという自責の気持ち、
などマイナスな感情を持つことが多くなるのです。

異職種配転をきっかけに心身に不調をきたし早期に退職する例は少なくありません。

 もちろん、企業経営上で必要な異職種配転もあるはずです。

しかし、そうした場合であっても、研修・職能教育を制度化し、
標準的な目標達成が求められるまでの十分な期間をおくこと。

配転によってこうむる精神的負担にきちんと対処できるようなサポート体制をとること。

つまり、はじめからメンタルヘルスの不調がおこることを見越して対応することが
肝要ではないでしょうか。

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