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2003年10月6日更新
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誤解や偏見があることを前提にメンタルヘルス対策は出発します。
上から5つ目までは現場の指揮官に多い誤解で、下の二つは人事労務、産業保健職に多い誤解です。簡単にいえば、現代では職場のメンタルヘルスの悪化は先進国では共通の課題で、この克服が二一世紀に生き残る企業の条件の一つともいえます。みかけは個人の問題に見えて、その実体は生産性を低下させて企業収益に悪影響を及ぼす組織の問題というのが正解です。
恥というのは会社=お家の恥という昔風の意識もありますが、同業他社の実態を知ったら、「ウチだけではなかったのか!」と気休めにはなるでしょう。
問題は、わが国の場合、大規模な疫学調査が実施されていないので、「わが社」と比べる基準がないということです。ちなみに韓国の場合、18歳から64歳までの6114人を9ヵ月間にわたって調査し、31%がニコチンやアルコールへの依存やメンタルヘルスの不調に悩んでいることを明らかになりました。ニコチンやアルコールへの依存者を除いても10人中1人がうつ病やパニック障害、統合失調症などの精神疾患に悩んでいるといいます(Ministry of Health and Welfare)。
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有名な「3つのA」(Absenteeism, Accident, Alcoholism)から。
モラールの低下として各種の依存症、セクハラやいじめなどがあげられましょう。後者はいわばメンタルヘルスの下半身問題です。教育界では、教師のメンタルヘルスの悪化が急速に進んで、病気による休職者5200人余のうち心の病は48%を占めて、10年前の2.2倍。同時に教員の不祥事も増え、「補導した女子生徒の携帯電話の履歴をたどると教師にあたることが多い」と文部科学省が報告するほど(日経定時ニュース)で、メンタル悪化はモラールの低下をともないます。
注意! メンタルヘルス不全者が不倫をするというのではありません。
最近は仮病と区別のつかない欠勤も問題になっています。セクハラや不倫、各種のアルコール依存などもモラールの低下と考えられます。
注) ここでは不倫が愛であるか、そうでないかの議論はいたしません。
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わが国における、企業収益への悪影響については、これからの調査研究課題といえます。
@多くの事業所で長期休業日数(件数ではない)の70%近くがメンタルです。
Aそれだけでなく、うつ病の前段階での作業能率の低下も問題です。
Bうつ病の診断基準をみたさない閾値下うつ病であっても能率が低下するのです。
要するに個人レベルで以前と比べて生産性の低下をみたら、うつ病を考えてみましょう。
Cリスク管理(自殺) 軽症のうつ病であっても自殺のリスクが高いことがポイントで、患者の5〜7%が自殺を企てます。なり初めと、治りがけの時期に多いのです。うつ病が重いピークの時期は、自殺を計画するエネルギーも枯渇している状態なのです。
ILOの報告によると、アメリカではビジネスマンの休業は年間のべ2億日もあり、医療費は300〜440億ドルにも達しており、イギリスでは10人中約3人がなんらかの精神的な不調を感じ、休業日数はのべ600万日と推定されているほどです。WHOは世界総人口の3〜5%がうつ病だと推測し、ILOによれば今後うつ病を患う人は、3億4千万人にものぼると予測しています。
ILO HPよりhttp://www.ilo.org/public/english/employment/skills/disability/papers/usacover/index.htm
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@うつ病の生涯有病率(一生のうち一度でもなる頻度)
男性10%、女性25%、一説によれば平均して15%といわれるほどで、全ての病気の中でもありふれています。
A躁うつ病とは違う
ただし、職場で問題になる、いわゆる「うつ病」は、ほうって置いてもハイにはなりません。そうなるのは躁うつ病で、かなり少ないのです。
B統合失調症
妄想・幻覚出現するが統合失調症は10歳代から20歳代の青年期に発病し、35才以降の発病は少なくて、高学歴社会の日本では就職の前後に発病し療養する事例が多いのです。
障害が大きいために仕事する能力がかなり失われ、早期に退職を余儀なくされるためかえって職場ではあまり問題になりません。
Cパニック障害
パニック障害は、晴天の霹靂のように呼吸が苦しくなって死の恐怖に襲われる病気です。自分は病気だという意識すなわち病識が強いために、うつ病に比べ、医療機関を受診し治療に乗るケースが多いのです。
D職場不適応
最近、うつ病に見かけはよく似ているけれど、異なる職場不適応が増え出社拒否となって現れています。
しかし管理職が把握すべきは、なんと言ってもうつ病です。
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ビジネスマンのうつ病の特徴は
@早期にはカラダの症状が主体になる
A悲哀感よりも意欲の低下が強く出るということ
特別のきっかけもなく、「仕事をやめたい」と言い出すのは重要なサインです。
仕事=人生という人間にとって、それは死にたいことの間接表現ともいえます。
あと二つ、身体症状として大事なのは、頭痛と性欲の低下です。
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管理職がスタッフをチェックする場合、作業能率の低下が重要です。こういう状態の時に反省文や改善レポートを書かせるのはムリ、ムダというもの。説教も頭に入りませんし、叱咤激励はタブーといえるほどの逆効果です。
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意外に思うかもしれませんがうつ病は精神科の病気ではありません。
@不眠や食欲不振、倦怠感、頭痛などの多彩な身体の症状を起こすため、多くの人が内科を受診します。Aビジネスマンのうつ病では発病の初期にはココロの症状よりもカラダの症状が主になります。もちろん、検査で異常はみられません。
B更に問題なのは、うつ病にかかっても病気になったという自覚(病識)が出にくいことです。
誰でも腰が痛くなれば、整形外科を受診するし、おなかの大きな妊婦の下腹部が痛くなれば産婦人科に行きますね。しかしうつ病では、仕事が上手く回らないことやトラブル続きであること(客観的にはそうとは限らなくても)をまず自覚し、カラダの不調を気のせいや忙しさのため、せいぜいが「ストレス」のせいにして病気になったとは夢にも思わないのです。
Cわが国では内科にかかる新患患者の6%以上がうつ病と考えられています 。
医者も患者も、まさかうつ病とは思わないで治療をしていることになり、検査ではたいした異常がないので、胃薬+睡眠薬などが処方されますが、当然効きません。
検査で異常のない身体の不調は心の病を疑っていましょう。
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メランコリー親和性といわれる、うつ病になりやすい考え方です。
ひとことでいうと「周りに楽をさせる働き者の優等生」
半面、業績を上げるのにふさわしい資質で、光があたれば業績になり、影の面が出ると発病になると考えるべきでしょう。
最近、心理テストなどでコレをチェックし職場からはずそうという、もったいなくしかもアブナイ発想もありますが、こういう人を使いこなすのが人的資源管理なのです。
社会経済生産性本部メンタル・ヘルス研究所の小田晋所長は、日本人の出世の4条件(テトラ)の一つとしてこの考え方を含めています。専門職にとって、このメランコリー親和性は、ある種の職場不適応と純粋なうつ病を区別する目安になります。
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@手を抜かず生真面目にすべてをこなそうとするが、能力を超えても休むことを自分に許さず、ますます疲れる
A周りの人に合わせようとするが、それが自分のペースとの間に折り合いがつかず、いつも悩み疲れる
野村総一郎 「内科医のためのうつ病診療」(医学書院)から
そのような状態が続いて疲労状態におちいり、ある種のストレスがきっかけで発病し、病的なものの考え方が生じる。
これは病気のためにおこる頑固な考えで、気休めを言っても修正不能です。
周囲の誰も彼を責めてはいないのに「もう俺はダメだ! 部長にも会社にも見放された! 消えてしまいたいくらいだ!」となってしまうのです。けれども薬と休養によって病気が治れば、病的な考え方(すべてを悪くとらえる)は消えます。
従って、職場復帰後に妙な気遣いや勘ぐりはいりません。精神科医の笠原嘉氏のことば、「引き潮の際には岩は障害物にみえても、元に戻れば問題にならない」というのは本当に意味深いといえます。
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管理職はともかく、産業保健職が面談する場合でも、うつ病かどうかを判断するのは難しいもの。
内科医ですら見逃すことがしばしば。仕事への差しさわりがあるという事例性のチェックが重要です。
病気の面談という視点ではなく、部下の仕事を把握するという管理職の本分にたてば、必ずしも産業保健職だけが受け持つべき仕事ではないのです。ましてマンパワーの不十分な事業所では上司と人事の役割が決定的に重要です。
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EAP(Employee Assistance Program )が発達していないわが国では、従業員の療養と職場復帰には職場のサポートが欠かせません。「そのようなウェットなやり方は出来ない!」といっても、療養や職場復帰までかかわるEAPは存在していないし、社会資源も乏しいのです。
図左 情報の断絶
従業員を支える要素(契約関係にある)として、主治医と職場の二つがあるのに現実には前者との結びつきしかありません。当然のことながら主治医は守秘義務を最優先して、職場復帰に役立つ情報であっても職場には教えてくれません。はっきりいって断絶があります。
主治医は患者と契約関係があるから、職場に対して距離をおいているだけでなく偏見もある。
更に、たいていの臨床医は、医学は知っているけれど仕事は知らない、すなわち産業医学の面が弱いのです。一方、職場の側にも病気に対する誤解と偏見がまだまだあって、従業員をさしおいて主治医に病状や予後を尋ねようとするところもある。
図右 サポートのトライアングル
産業医制度が十分に働いていない事業所や、産業保健職のマンパワーが乏しいところでは、ウェットな発想ではあるけれど、このようなサポートのトライアングルを作る必要があります。
注)この構想には異論もありますが、メンタルヘルス問題は、医師(主治医、産業医の別なく)と職場の関係をクローズアップさせるものです。多くの臨床医が産業医学に通じなければならない時代になったともいえましょう。
いくら優秀な主治医であっても、職場のことがわからなければ、うつ病を「治す」ことはできても職場復帰は成功させられないです。
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@職場復帰ではウォーミングアップが重要
スポーツ選手がケガをして病院から退院していきなり試合ということはありえません。リハビリの後、練習を積み重ねウォーミングアップをしていくのです。シーズンオフの後も同じこと。
うつ病からの職場復帰も同じことなのです。
A初回の職場復帰が重要!
職場復帰がうまくいかない、再発をくり返し療養期間が長くなるほど職場への適応が困難になります。初めての療養、初めての職場復帰の際の準備がとても大切です。
Q 要員不足で段階的復職などできない?
A 逆です。要員が豊富にいる職場なら、いきなりフル稼働になっても、助け合いによってサポートされるでしょう。そうではないからこそ、規則を作って、段階的に復職させることが必要です。
ただし、休業期間中に行う「ためし出勤」は労災、通災にかかわるリスクがあることを承知してください。
A純粋なうつ病には薬が良く効く
その上、再発予防の働きもあります。「ストレスがどうした、こうした」と妙に構えるよりも、まず、しっかりと受診を続けさせましょう。
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特定の人間関係や仕事上のできごとなどの職場のストレスがすべての原因、と単純化してはいけません。それは単なる引き金に過ぎず、病気が良くなるとストレスではなくなってしまう場合も多いからです。逆に、うつ病になったために人間関係がうまくいかなくなる場合もあります。
大切なことは過労を避けることと、一定期間、内服を続けることです。
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討論課題 ノウハウも大事ですが、その理由を把握することはもっと大切です。
うつ病者に対しては、なぜ激励(がんばれ、しっかりしろ)がタブーなのか、討論してみましょう。
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成果主義の浸透によって、育成的な職場風土がなくなりつつあります。短期間の成果が基準となり、各自が自分の業績を挙げることで手一杯となり、即戦力が何より求められ、育成的な発想は遠ざけられています。
その上
@表面だけ昔風の、体育会的な「厳しい父親的管理職」も多く
A組織のフラット化でプレイングマネージャー的な、部下を把握できない上司も少なくないし、
B経験の乏しい若い管理職が増えてきたこと。
しかし、これでは指揮官不在の現場が増えてしまうのではないか?
メンタルヘルス悪化の背景にはこんな事情もありましょう。
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人事労務や総務の皆さん、よくお考えくださいね。
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2、3次予防中心の医療的なメンタルヘルス対策だけでは限界もあるし、費用対効果の面でも効率的ではありません。人的資源管理の一環として心の健康を向上させる取り組みが求められます。