ある日、工場に勤続30年余という中年の男性が受診しました。
「からだがだるい。いらいらする。肝臓を調べてくれ」というAさんです。
心配そうな顔をした奥さんといっしょです。 消化器専門のB先生が診察をはじめました。
いろいろお話を聴いたあと・・・・
患者さん全員にしている尿検査をおこないました。
異常なしでした。
次に胸を診察をして異常なし.
お腹をさわって肝臓は腫れてていないし、
腹の壁は柔らかいことを確認しました。
だるさがひどくて受診したから、肝臓病を見落としては困ると
思い、肝機能検査のほかに、糖尿病の検査、腎機能や塩分、
炎症反応など病院内ですぐに結果が出る検査をだしました。
しばらくたって結果が出たのをみると、血液中のたんぱく質が
減っているだけでした。
奥さんが診察室に戻ってきていうのです。
きのう突然「死にたい」といい出したのです。工場の三交替勤務
で最近だいぶ疲れているようで、仕事自体うまくいっていないらしい。
雰囲気がただごとでないので、無理して(病院へ)つれてきた
そうです。 さあたいへん! B先生は検査の指示を出しイライラ
に対して、精神安定剤を1錠処方しましたが、それではどうも済まさ
れそうにありません。思いあまってC先生に相談しました。C先生
は医局会議中でしたが、ことの緊急性を感じてバトンタッチしました。
Aさんは少し痩せ気味で、ノーネクタイの白いワイシャツでしたが、
薄くなった髪はきれいにとかされています。けれど「内科のCです」
と初対面のあいさつをしても、話をするのもだるそうで、視線すら
合わせようとしません。それにかなりタバコの臭いがします。かつ
ての自分のように50本以上すっている様子です。B先生がすで
に血液検査までしてくれてあったので、重大な内臓の病気はなさそ
うだ、とC先生は思いました。
「今いちばんつらいことはなんですか?」 とたずねるとはっと我に
かえったようにワンテンポ遅れて話はじめました。
・・・仕事が辛い。今の職場は勤めて30年になる。
不規則な3交代で立ち仕事・・・一日中暑い。
一年前くらいからしんどくなった・・・。
「食事はおいしいですか? 味わいは?」
おいしくないねえ、むりやり詰めこむかんじ・・・
「夜は眠れますか?」
・・・少しむっとして・・・不規則の三交替だからかよく眠れません。
・・・休みが4日おきだから食欲はどうも狂ってしまう。
「休みの日はどうしていますか?」
寝ているけど疲れがとれない。
「やりたいことは何ですか?」
死ぬまでに海外旅行したい・・・ ・
「ほ〜 海外旅行ですか? でも今あんましつら くてどこかへ逃げ
ちゃいたい、消えちゃいたいなんて思いませんか?」
ハイ・・・
「まことに失礼な質問で恐れいりまが、大事なことなので、その死にたいと思ったこと、ありますか?」
死にたいなあと思うこと、ありますね・・・仕事についていけない、
人(職場の人員)がいないから休めな・い・・だから・・・
非番になっても仕事にかり出される。
だるくて辛いけど・・急に休んだら迷惑 かかるし・・・実は
車で高いところまで行って飛び降りて一気に死ぬことも考えた。
不景気なんて 一切なしで・・・(自分の仕事のあり方は)人間
のすることではない。ついていけない・・・きのうOOの方(ある観光地)まで一人でドラ
イブして・・・崖から飛び降りようとしたんだけど・・・ できなかった。
つらっとしてまるで他人ごとのように感情を交えずしゃべります。
相変わらず視線を合わせるどころか、なにか別のことを考えているよ
うで上の空です。右手の指を貧乏ゆすりしています。
「だいぶお疲れのようですね!
どうやって治す、 かこれから説明しますが、その前に一服しませんか?