生活習慣病における新しい医療面接法「職業生活の聞き取り法」 

                          看護師にとってのマクロの視点とは

 

緒言 

ここ数年、社会経済の環境が激変して勤労者の雇用条件が悪化し、長時間勤務やリストラなど心身へのストレスが増加してきている。自殺やうつ病の増加はもちろんであるが、糖尿病や高血圧症など生活習慣病のコントロール悪化や治療中断が目立ってきている。一方、内科領域とりわけ外来診療部門では、看護婦は医師とともにチームをつくり患者に適切な療養指導をすることが求められてきた。

看護学の分野も他の医学と同様、専門分化して技術志向が高まっている。それ自体は医学の進歩にとって望ましいものであるが、日常診療の場面では、細分化された視点だけでは患者に対応しきれないのが今日の現実である。また、多忙さや経済的な理由のため受診が困難となる患者が増える中で、療養指導の実態は相変わらず「命を選ぶか、仕事を選ぶか」のような旧態然としたものが多い。その結果、患者が多忙な時間を割いてせっかく受診したにもかかわらず信頼関係が十分形成されず、指導内容が実行されなくなる。場合によっては医療従事者への不信感がめばえて、受診の中断も起こる。

つまり現代は多くの疾患が社会経済の影響を色濃く受ける時代であるため、今日的な患者観にもとづく新しい療養のありかたが求められている。本論文では生活習慣病の新しいアプローチとして「職業生活のききとり法」の特徴と意義について紹介した。医師という部分を看護婦と読み替えていただいて結構である。

 

 

症例と経過

47歳のサラリーマン。従業員300人ほどの会社の営業部門に勤務。健康診断で2年連続して糖尿病が疑われ精密検査を目的に受診。身長は176cm、体重86kgで受診時の空腹時血糖は286mg/dlでHbA1cは9.6と明らかな糖尿病で、すでに尿蛋白が陽性で収縮期血圧は150を超えていた。

A医師はその場で20分かけて糖尿病の病態生理を解説し、1週間の糖尿病教育入院を勧めたが仕事を理由に拒否された。次に看護婦が医師の後を次いで、「このままでは合併症で大変なことになる」と合併症の危険性を丁寧に説明し、再度入院を強く勧めた。後日食事指導がなされ、管理栄養士が面談した結果、帰宅時間が10時過ぎと遅い上に夕食のカロリーが多く、移動は車に頼る生活であった。2ヵ月後もHbA1cは9.4と改善なく、療養指導を守らないことが明らかだったため、担当医と看護婦は、「命と仕事とどっちを選ぶのか?」と粘り強く療養指導を行なった(表 1)。それ以後この患者は受診中断となった。後日、看護婦が患者と連絡したが、「忙しくて受診できない、そのうち受診する」ということであった。

2ヵ月後、感冒のため土曜日に受診した患者に対し、B医師は患者との人間関係を作り上げることを優先し、次のようなアプローチを行った。@最初、療養指導は実施せずに患者の職業生活について問診する。A行動変容を強要せず、受診のありかたとスケジュールについて十分に相談する。

患者は職業生活の実態を詳細に聴いてくれた担当医に信頼感が芽生えて(表 2)、必ずしも定期的にはならないが、担当医が代わったとしても可能な曜日、時間を見つけて受診することを合意した。

 

考察

1)行動変容に影響する因子

生活習慣病の患者が療養上の注意を守り、不適切な生活習慣を改善することに影響する因子として次のものがある。

@患者の疾病の解釈モデル1) A医療従事者との信頼関係 B勤務条件。

 

@疾病の解釈モデル

従来は患者自身が自らの病気をどのように位置づけ解釈しているか、という疾病モデルが行動変容に重要であると考えられてきた。症例のように明らかな合併症を持つ糖尿病患者が、医療従事者の努力にもかかわらず容易に中断する一方、気質的疾患がない不安障害の患者が、種々の身体感覚の変化を重篤なものと解釈し頻繁に受診することもある。これだけ医学が進歩し、一見するとマスコミが医学知識を普及しているように思えるが、生活習慣病に関する勤労者の一般的な解釈モデルは「自覚症状がない病気は治療の必要性がない」という素朴なもので、結果的に受診や治療が動機づけられない。首都圏サラリーマンの3分の2は帰宅時間が22時以降という現実を考えると、正しい医学知識を身につける時間がないというのが日本人の現実であろうか?

 

A医療従事者との信頼関係

 かといって正確な診断に基づいてわかり易い病態生理の解説を行い、懇切丁寧な療養指導をすれば良いのであろうか? しかし仕事を中心に考え、生きている多くの患者にとって行動変容を突然に迫られ、それをただちに約束できないことが医療従事者からの叱責につながるとすれば、不安感のみならず不信感と反感が生じるであろう。医療面接のABCとして、医療従事者との信頼関係(文脈)がなければ、どんな療養指導(内容)も伝わらないという原則2)がここでも重要である。

勤労者、とりわけサラリーマンは職場では常に人事考課を受けており、病気であることが明らかになるとリストラや不利な配置転換に結びつく可能性もある。もちろん勤務自体が困難な骨折や急性腰痛症などの運動器疾患や外傷、あるいは手術の必要な悪性腫瘍などは、会社や上司は「しっかり治してから職場復帰せよ」と療養に理解を示してくれる。しかし月に1回、しかも期限がなく受診を続ける生活習慣病には、上司の理解は乏しいと考えたほうが現実的だ。

療養の導入期に患者の疾患に対する知識が不足しているからといって、医療従事者が重症であることを理由に命令調・説教調の療養指導をすれば、患者の心には上司の評価を損ない、場合によっては職さえ失うことへの恐怖心が生じることがありうる。その恐怖心への対処が上司や会社への適切な働きかけとなるとは限らず、結果として医療従事者への反発を示すことになる。そしてその反発は一方的な受診中断という形をとる。

 

B現実的な受診条件

 食事習慣の乱れや、運動不足が影響して生活習慣病を発病する勤労者は、通勤時間を加えれば12時間以上の拘束を受けている場合が多い。しかも現実の雇用状況では、勤労者は個人の権利である年休や病休取得を自己規制しているため、医療従事者側の都合で受診日時を決定することは現実にそぐわない。もちろん医療従事者が患者の職場に介入することは不可能であるから、土曜日や夜間診療を活用することになる。したがって1人の主治医が対応することはできず、複数の医師やスタッフが療養にかかわることになる。医療従事者側の患者把握が不十分にならないように、カンファレンスなどで患者対応を統一し信頼関係を形成する必要がある。

 

2)職業生活の聞き取り法

 それでは患者と信頼関係を構築するには何が必要か? 

安全で信頼性の高い医療技術、懇切丁寧でわかり易いインフォームド・コンセント、カルテなどの診療情報開示などがあげられてきた。しかしそれらは、受療についての動機付けが高い人々に対しては有効であるが、療養初期で、受診動機があいまいであるとか、病識が不十分な時期には必ずしも効果を発揮しない。これらの優れた医療内容(コンテンツ)そのものが信頼関係(コンテクスト)を向上させる訳ではない。それは賃金が高いからといって仕事への意欲がわくとは限らないのと同じである。

医療従事者がそうであるように、現代人の行動規範は自分や家族の健康のような私事ではなく仕事にある。前述したように、生活習慣病に罹患しコントロールが悪い人ほど勤務時間が長く職業生活に自己実現をめざしており、このような傾向が強いので注意が必要である。

次に医師A、Bの初回診察時の対応を分析してみよう(表 3)。

両医師の最終目的は患者の生活習慣の変容であるが、当初のアプローチの仕方は全く異なっている。A医師では十分な時間をかけて、懇切丁寧に患者の病態を解説している。つまり内容(コンテンツ)を伝えることにエネルギーを注ぎ、疾患に対する理解を深めてより妥当な解釈モデル(あるいは病識)を獲得することを当面の目標としている。なぜならA医師は疾患や合併症に対するより深い理解が行動変容をきたす原動力であり、患者の信頼感は医師の懇切丁寧さに基づくとみなしている。したがってアプローチの仕方は文字通り療養指導であり教育的な方法となって、情報は医師から患者へ伝達される。当然のことながら場の主体は医師である。

他方B医師は糖尿病に関する解説は保留し、まず職業生活に関する問診に時間をかけている。当面の獲得目標は患者との人間関係を構築すると同時に、職業生活が及ぼす悪影響を解明することにある。A医師は患者の行動変容を妨げるものとして患者自身の疾患に対する知識不足を重視しているが、B医師は職業生活の歪みに対する患者の気づき不足を念頭においている。したがって課題(職業生活の歪んだ点)を明らかにすることが第一義的になる。しかし、患者の職業生活の実態は本人にしかわからないため、手法は医師からの解説ではなく問診となっている。

それはともかく、問診が信頼関係をもたらすのであろうか?

勤労者の信頼を得る最大の方法は、仕事(職業ではない)への敬意と共感である。一方、「お仕事ご苦労様です」式の一般的な会話は、仕事の厳しさを知らない者の意味のないあいさつとみなされる。

医師が患者の職業生活に興味と関心を寄せることが必要で、傾聴により問診を展開していけば、自然と仕事の内容や苦労が語られる。形式としては問診であるが、技法としてはいわゆる医療面接でカウンセリング的な性格も持つ。あいづちや促し、要約など、ごく簡単なカウンセリング手法で職業生活を聞き取ることで、療養に大きく影響する因子が発見されることがしばしばである。情報は患者から医師に流れ、教育される対象は医師であり、A医師の場合と逆になるため、患者の主体性と自尊心が保たれている。

しかし「職業生活の聞き取り法」には欠かすことのできないポイントがあって、@職業生活の大変さに共感を示すこと(事例では大変ですね、を連発している)A家を出る時間と、家につく時間を明確にしていること、B療養に影響する雇用形態や賃金制度のおおよそ(表 4)について理解していること、などである。

 

 

     サービス残業が常態化し、裁量労働制(表 4)が浸透している今日、医療従事者には想像できない長時間勤務がなされている。2001年12月12日に厚生労働省労働基準局から発表された「脳・心臓疾患の認定基準の改正について」3)によればおおむね月45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できる、とされている。労災とはみなされない生活習慣病についても、勤務時間が疾患の予後に影響を及ぼしていることが予想される。けれども、「勤務時間は?」というたずね方をした場合、「9時から6時まで」という名目上の勤務時間が答えとなる場合がある。また変形労働時間制(フレックスタイムではない)のように出社、退勤時刻が不定、不規則であり、月単位で勤務表がきまる人も多い。「勤務時間は?」と質問しても患者自身ひとことでは答えられないケースも多い。これは重要な情報で、このような勤務形態は受診の定期化がなされないばかりか、それ自体が疾患の予後に悪影響を及ぼす(表4 参照)。

 

 

職業生活に関する情報量は圧倒的に患者に多いのであるが、当然のことながら、患者はその歪み、たとえば一定以上の長時間勤務の危険性には気づいていない。患者はこれを医師に解説する過程で、自らの職業生活のありさまを振り返ってみる機会にであう。彼は職場を離れて、現場には疎いけれども専門家である医師に状況を理解してもらおうと努める。それにより仕事に埋没しているビジネスマンではなく、客観的な視点に立つ自分自身に戻れるのである。やがては著しい長時間勤務などの職業生活の歪みに気づき始めるであろう。 

中には働き方の歪みに気づかない人もいるが、とてつもない長時間勤務や厳しい人事考課には苦しんでいるわけで、時間をかければ気づきが生まれるのである。半面、医師は患者の職業生活に対して共感や敬意を表しているため自尊心は傷つかない。

しかしA医師の場合は、いきなり職業生活の歪みを指摘して不規則な生活、ライフスタイルだとみなして批判している。患者はこのようなライフスタイルが適切ではないと思ったとしても、自尊心は傷つき懇切丁寧な療養指導にも耳をかさない結果ともなる。職業生活の歪みに気づく、せっかくのチャンスが失われてしまう。

 

A医師は直接的に患者は自分の命と健康を守るべきことを主張し、B医師は患者の職業生活への思い入れに配慮して、間接的に健康の課題を表現している(下線部分参照)。もちろんB医師の方法は、急性や悪性の疾患には当てはまらないことは当然であるが。いささか逆立ちした表現4)であるが、仕事が唯一の自己実現の場であると考えている圧倒的多数の勤労者に対しては、「疾病が職業生活に悪影響を及ぼすので何らかの配慮が必要である。」と説明する方が説得力をもつ。

 

 

以上、「職業生活の聞き取り法」をまとめると

(1)   生活習慣病や心身症の療養早期に有用な手法

(2)   職業生活について、傾聴の姿勢で聞き取りを行うことで療養に影響する要因が把握できる

(3)   医療従事者が共感を示していく過程で、信頼関係が形成される

(4)   長時間勤務のような職業生活の歪みに患者自身が気づき、行動変容の第一歩となる。

(5)   医師以外の医療従事者にも容易に可能である

(6)   ただし、最低限の医学以外の知識、療養に影響する雇用形態や賃金制度(表 4)について知る必要がある

 

 

3)共同作業としての疾患管理

 生活習慣病の管理とは、療養指導という用語に見られるように、医師をはじめとした医療従事者が診断結果や病態にもとづいて、患者の生活習慣をより適切なものに導いていくということにつきる。医師は適切な情報を十分な説明のもとに提供し、患者はそれに同意し自己責任のもとに行動を変容していくというのが期待されるプロセスである。命は誰にとっても何よりも大切なはずであるから、患者が生活習慣を改めないのは理解が不足しているか、欲望をコントロールする意欲に欠けていると解釈され、教育、時には叱責の対象となった。

しかし現代では、このような患者観にもとづく一方的な療養指導が効果を発揮しないケースも多い。患者は疾患をもつ人間である以前に職業人であり、仕事上の利害によって行動することに医療従事者はもっと注目してもよいと思われる。疾患の予後は職業生活に影響される時代である。しかも療養環境といった場合、普通は家庭を思い浮かべるが、一日の半分以上が仕事と通勤に費やされる患者にとって、それは職場に他ならない。どのような対処法を取るかは別として、職業生活の歪みに目を向ける必要がある。その際、病態に関する情報は圧倒的に医師に多く、予後に影響する療養環境(職業生活)についての情報はその逆である。この情報格差を埋めるために行うのが共同作業としての「職業生活聞き取り法」なのである。

 

結語

生活習慣病の発症や予後は患者の職業生活に大きく影響されている。患者の第一義的な関心は、必ずしも自らの健康とは限らない。医療従事者はこの現実から出発し、医療情報の説明、教育、説得という一方的な手法にとどまらず、患者との共同作業により、疾患の予後に影響する職業生活の歪みがどこにあるのかを発見する必要がある。その際、療養早期に「職業生活の聞き取り法」が医療への信頼感を高める点からも有用であると考え報告した。

 

参考文献

1)飯島克己:「医療の場でのコミュニケーション技法」、JIM、11(3):202〜209ページ、2001年

2)斉藤清二:「はじめての医療面接」、17ページ、医学書院、東京、2000年

3)厚生労働省労働基準 「脳・心臓疾患の認定基準の改正について」、平成13年12月12日

4)鈴木 安名:「職場のメンタルヘルスがとことんわかる本」、84〜86ページ、連合通信社、東京、2001年

 

表1 A医師による療養指導内容

 

@空腹時血糖が286もありますね。しかも、HbA1cが9.6もあって、精密検査をするまでもなく糖尿病です。HbA1cというのは糖尿病のコントロールの目安で・・・(中略)・・・・わかりますか?

まあ

Aしかも尿に蛋白も出ているので、腎臓の合併症もあるようですね。糖尿病の合併症は、腎臓、眼、血管などにおこって最悪、失明することもあるのですよ。あなたの場合、悪化していけば人工透析が必要になるかもしれません。

 はあ、そんなに悪いのですか?

Bもう少し検査が必要ですけれど・・・糖尿病のコントロールは、なんといっても食事療法がポイントです。あなたの場合、夕食がとても遅くて不規則ですね。夜寝る前に、肉類や炒め物などカロリーの高い食事をとりすぎていますね。夕食の時間を早めてカロリーを減らし、朝・昼・夕と均等なカロリー摂取にする必要があります。もっと早く帰れませんか?

 いやあ、努力しようとは思いますけれど、なかなか難しいですね。

Cそれにもっと運動したほうがいいですよ。車に乗ることがほとんどだし、

 月に一、二度ゴルフに行っていますが・・・

Dそういうのは運動とはいえません。週に三回以上、20分程度のウォーキングがお勧めですが、どうですか?

 いや〜、帰りが遅いものですから、なかなか(できそうにありません)・・・

Eそんな心構えでは良くなりませんよ。このデータでは血圧も高そうだし、合併症が進んでいく恐れがあります。たとえば若くても脳梗塞のリスクは高くなりますし、狭心症や心筋梗塞などにもかかりやすくなります。

 お薬で何とかならないでしょうか?

Fそれも大事ですが先ほど申し上げましたように、糖尿病は生活習慣病で、食事療法と運動療法がまず第一です。食事療法が不十分だと、薬物は余り効いてきません。

 ・・・・・(無言)

G管理栄養士のレポートでは、食事ばかりか生活も不規則で十分な睡眠がとれていませんね。それに休日はごろ寝ばかりしていますね。ストレスの多いお仕事のようですから、もっと積極的な休養にすべきです。こんなライフスタイルでは早死にしてしまいますよ。

 ・・・・・(無言)

H仕事と命とどちらが大切ですか?

 ・・・・・(無言)

 

 

表2 B医師による対応内容

 

@お仕事は?

会社員です。

A会社員といっても色々ありますけれど・・・

営業です。

Bそれは大変ですね。どんな業種ですか?

     ・・そうですね、測定装置の会社です。

C     測定会社の営業といいますと?

ええと、単なる営業だけでなくて、製品のトラブルへの対処とか・・・サポートセンターみたいなこともやる何でも屋ですね。

D競争が大変でしょう?

ええ、この頃は価格競争が激しいから、納期が勝負になりますね。他社より一日でも速い納入がポイントです。

Eそれでは、お帰りは遅くなるのでしょう?

今はそれほどでもないですよ。最近は早くて9時前には帰っていますけど・・・

F遅いときは?

・・・そうですね・・・2ヶ月前までは毎晩11時過ぎで大変でしたね・・・ほんと、その頃は目茶苦茶で、夜はどか食いしていましたよ。

Gそれは大変でしたね、朝は何時ごろ家を出るのですか?

7時過ぎです。7時15分位ですねえ。

Gすると15時間近くも働くわけで、凄いですね(感心する)!

ええ、それくらい働いているでしょうね、ほんと大変です。

Hそれでも人事考課は厳しいでしょう?

まあ、景気悪いですから。仕方ないです。

I本当に、お仕事がんばっておいでですね、お仕事がお好きなのですね。そんなあなたに、こういうデータをお見せするのは心苦しいのですが、正直言ってよろしいでしょうか?

ええ、どうぞ、前にも聞いていますから。

Jデータはかなり悪いです。こういう状態が続くと、いくら立派なビジネスマンのあなたでも不利な問題がでてくると私は思います。何とか良くなるようにお手伝いしたいと思いますが、いかがでしょうか?

 うまくできるかわからないけど・・・よろしくお願いします。

Kそれでは、どういう風に通院すればいいのか、一緒に考えてみましょうか?

 はい

 

 

 

表3 A、B各医師のアプローチの特徴

 

A医師      B医師

 

最終目的        行動変容     行動変容

当面の獲得目標     患者の病識    人間関係の構築      

手法の目的       病態の理解    職業生活の歪みの解明

手法          解説による理解  問診による気づき

手法の特徴       教育的      自発的

情報の流れ       医師から患者   患者から医師

場の主体        医師       患者

 

 

 

 

表4 療養に影響する雇用形態や賃金制度

 

1)雇用形態 

@     正社員 管理職ではなくても正社員以外の従業員の教育や労務管理を行うケースがほとんど。成果主義の下で異常な長時間勤務をしているケースが多いので注意。

A     パートタイマー スーパーにおける主婦のパートをイメージしては不正確である。フルタイムのパートや残業という形態もあって、9時間勤務のパート社員もいる。

今や民間企業の製造、販売の主力部隊である。

B     派遣社員 技術、開発分野のように専門的な知識をもちあわせた人が多い。籍は派遣会社にあるが、派遣先の企業で働く。正社員と同じ仕事をしているが給与水準が低く、正社員との心理的葛藤もみうけられる。情報通信分野の人では、脂肪肝、高脂血症など過栄養、運動不足の人が多い。

 

2)勤務形態

@     交代勤務 サーカディアン・リズムが乱され、不眠症やNUDにもとづく消化器症状を訴える場合が多い。身体に負担をかける反面、次のAに比べて受診日を決めることは困難ではない。

A     変形労働時間制 9時間勤務の週もあれば、7時間勤務もあり、月で平均すれば1日8時間労働というのが本来の制度で運輸業などに多い。実際は出勤、退勤のパターンが数種類ほどあって、周期性のない不規則で複雑な組み合わせがなされる。療養計画を立てるのが非常に難しい勤務形態である。

B     休日の不定な勤務 休日が不規則だけでなく、不定な場合もある。上司が「明後日休め」などと命令してくる。休日の予定がまったく立たず、心への負担がとても大きい。

 

3)賃金制度

@     成果主義 上司などが以下のような基準で社員の成績をつけて、それにより賃金が決まる。社員の自己申告した目標に対する達成状況のように数値化できる指標のほかに、勤務態度、意欲などの数値化できないものも点数化される。社員は上司の評価が悪くならないよう、同僚との競争心に基づいて長時間の勤務をしがちになる。

A     裁量労働制 賃金制度ではないが、成果主義と組み合わされる。自己申告した仕事の目標を達成することができるのならば、勤務時間はある程度社員の裁量に任されるというのが本来の趣旨である。しかしビジネスの世界は厳しく、目標が高いため、かなりな長時間勤務となる。情報通信産業の開発部門の社員では、定時出勤の上、帰宅は午前1〜2時以降とか会社で徹夜などのケースもある。

 
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