タイトル:「ホワイトカラー職場におけるストレッサーコントロールの必要性について」
〜人事・労務管理研究会 労働環境ワーキンググループ〜
調査研究報告
発 表:平成12年8月9日(水)
担 当:労働大臣官房政策調査部 産業労働調査課
電 話 03-3593-1211(内線5245)
03-3502-6729(夜間直通)
近年、雇用の不安定化、成果主義の導入など、労働者を取り巻く環境が大きく変化しつつあ
る。しかしながら、雇用調整の実施や成果主義の導入といった企業の人事・労務管理の変化は、
組織や労働者への十分な配慮を欠いて行われた場合、労働者の職務満足の減少や、モラールダ
ウン、健康やメンタルヘルスへの悪影響を引き起こすおそれがある。
このため、労働省では、労働環境ワーキンググループ(座長 山崎喜比古 東京大学大学院
助教授)を開催し、企業の人事・労務管理や仕事・職場のどのような変化が仕事上のストレス
要因を高め、労働者の心身の健康状態にどのような影響を及ぼしているのかについて、調査研
究を実施した。
本ワーキンググループでは、平成10年度と11年度の2年間にわたり調査を実施した。本報告
は、平成11年11月〜12月に労働環境ワーキンググループで実施したアンケート「仕事の変化が
従業員の健康に与える影響に関する調査」((財)雇用情報センターへの委託調査)の結果を
もとに分析したものである。
調査結果の要旨
1 企業経営戦略の変化が労働者のストレス等に与える影響
・終身雇用を維持すると考えている企業で働く労働者(ストレス「あり」が55.0%)よりも、
基本的に見直すとしたり、終身雇用慣行をとっていないとする企業で働く労働者(同62.6
%、同72.7%)の方が、ストレスは高かった。
・勤務先企業が60歳代の再雇用・勤務延長を考えている企業で働く労働者(ストレス「あり
」が52.4%)よりも、再雇用等を考えていない企業で働く労働者(同61.3%)の方が、ス
トレスは高かった。
・企業のコスト削減策や効率化の実施内容のうち、「法定外福利厚生費の大幅削減」の実施
は労働者のストレスを高め(「削減が行われていない」でストレス「あり」が58%、「削
減が行われている」で同66.4%)、職務満足を下げる関係にあった。また、「本社スタッ
フの大幅スリム化」の実施も労働者のストレスを高め(「スリム化が行われていない」で
同55.1%、「スリム化が行われている」で同61.9%)、職務満足を下げる関係にあった。
2 成果主義及び目標管理の在り方が労働者のストレス等に与える影響
・目標設定の仕方及びその納得性は、「上司から一方的に決められる」という人(ストレス
「あり」が72.0%)ほど、また、「設定された目標に納得していない」(ストレス「あり
」が81.3%)など目標管理や評価の結果に納得していない人、また、評価への異議の申立
ができない人(ストレス「あり」が71.1%)ほど、ストレスが高く職務満足は低いという
関係にあった。
3 会社に対する評価及び会社観・仕事観と心身影響の関係
・賃金水準の維持・向上など会社側の配慮度に対する評価の高い人ほど、ストレスが低く職
満足が高いという関係にあった。
・会社観・仕事観について、「会社のためなら多少は私生活を犠牲にしてもやむを得ない」
という項目について「強くそう思う」という人ほど職務満足が高い傾向にあり、同時にス
トレスも高くなる(ストレス「あり」が83.3%)傾向にあった。また、「会社名や社内で
の地位が自分の励みになっている」の項目についても「強くそう思う」という人ほど職務
満足が高い傾向にあり、同時にストレスも高くなっていた(同84.6%)。これは会社への
忠誠心や仕事への意欲が強すぎるのも、過剰適応や生活の歪みを生んで、ストレスを高め
ることを示唆している。
4 企業におけるストレッサーコントロールの重要性
[職場におけるストレスの増大]
労働者が生活をしていく上で、ストレスは職場に限らず、生活上のあらゆる場面で常に伴
うものである。さらに、職場におけるストレスについても、人事・労務管理によるストレス
だけでなく、人間関係や職場の雰囲気等に起因する多様なストレスが考えられる。しかし、
近年企業の経営環境が厳しさを増す中で、労働者は雇用や将来に対する不安や人事・処遇の
変化、仕事や職場の変化にさらされ、職場における「人事労務管理によるストレス」は増大
していると考えられる。
人事労務管理制度の変化は、企業が経済社会の変化に対応するため不可避なものであるが、
労働者が過剰なストレスを抱えた場合、仕事の生産性の低下や心身の変調へとつながること
が懸念され、企業としても看過できない問題である。このため、労働者のストレス対策は、
今まで以上に重要となっている。
[総合的なストレス対策の必要性]
ストレス対策は、労働者の許容量を超える過度のストレッサー(ストレスの原因となるも
の)にさらさない積極的な配慮(ストレッサーコントロール)と労働者が蓄積したりしてい
るストレスをカウンセリング等で解消する事後的対応(ストレスコントロール)の2つの面
があり、十分なストレス対策を実施するためには両者を有効に組み合わせ、総合的なストレ
ス対策を実施することが重要である。
しかしながら、人事・労務管理の在り方と職場におけるストレッサーに関する研究はこれ
まで十分に行われておらず、今日の労働者がどのようなストレッサーにさらされているかは
明確ではなかった。本調査は、近年の人事・労務管理の変化に伴う職場のストレッサーと労
働者のストレスとの関係(本社スタッフの大幅スリム化といった企業経営戦略の在り方、仕
事の目標の設定の仕方、個人の会社観・仕事観といったストレッサーが労働者のストレスと
どう関わっているかなど)を研究した我が国で最初の調査として意義あるものといえる。
本研究成果を踏まえると、今後企業には、従来のような労働者が受けたストレスの解消の
支援(ストレスコントロール)だけでなく、労働者が受けるストレッサーが許容量を超える
ものとならないとする配慮、すなわちストレッサーコントロールが求められるであろう。労
働者の健康な職業生活=QOL(Quality of Life)を守るためには、ストレスの問題を個
人の原因に帰するのではなく、労働者全体の問題として企業がストレッサーコントロールと
ストレスコントロールを一体的に行うことが必要であり、政府においてもそうした企業の取
組を促進することが必要である。
(参考)
人事・労務管理研究会
労働環境ワーキンググループ メンバー(50音順)
朝倉 隆司 東京学芸大学助教授
原谷 隆史 労働省産業医学総合研究所
座長 山崎 喜比古 東京大学大学院助教授
吉井 清子 東京大学大学院医学系研究科
調査の概要 (旧労働省のHPの
平成12年8月9日をクリックしてください)
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