顔色の悪いどうみても30代半ばにしか見えない26歳の女性が、雨の明け方、午前4時ごろ受診しました。
胃が激しく痛むということで・・・。 有名な消費者金融会社A社の正社員といいます。
およそ1年ほど前から、3〜4ヶ月に一度、深夜に胃の激痛がおこるようになって、救急外来をすでに3回受診したといいます。
そのたびに痛み止めの点滴をして、5〜6時間病院で横になってから出勤するのです。
今まで血液検査、超音波検査、内視鏡検査などを受けたけれど異常はなかったそうです。
ご本人が「仕事のストレスで痛むのです!」とはっきりおっしゃったので、ざっくばらんに、それについてうかがいました。もちろん治療をしながらですが・・・。
職歴は20歳から3年6ヶ月消費者金融B社、1年4ヶ月前よりA社支店。
拘束時間は通勤時間を含めて14時間*(通勤時間往復1時間)ほどです。
*長時間勤務そのものが、うつ病だけでなく多くの心身の病気の背景にあることを思い出してください。
業務内容には驚きました!
1) 接客や書類の審査、法務局へ登記簿謄本を取りに行くという通常の業務
、そして
2) 支店内の正社員の指導業務(これがスタッフのマネージメント部分)
2)の指導業務のほうがずっときつくて、接客が上手くできない年下の正社員3名の指導には、とても苦労しているそうです。
さらに吸収合併したC社出身で、自分よりはるかに年上の中年男性社員を指導する責任があり、与信供与(その人にお金を貸す許可)にかかわる書類の書き方や、自社のシステム上のノウハウを教えるのが大変といいます。
「相手は以前の会社のやりかたで頭が凝り固まっているため理解に時間がかかるので、非常に気を使う」のだそうです。
別なストレスは同い年の支店長から、 「明日から1週間ほかの支店まわって、上の人(前述C社出身者)の指導をしてこい」と、突然命令され、電車で1時間近くかかる支店をまわることです。
「前に勤めていたB社のときは社員がいっぱいいて、上は上で指導力のある人材がいました。今のA社では人がどんどんやめていく。
人手不足からくる負担が多い」というため息の声が聞かれました。
どれが一番きつい仕事かと聴くと「やはり年上の(中年男性)方に教えることですね」と答える彼女は、人生の変転を知りつくくした平静な表情で、言葉を選んで簡潔に答えたのです。
彼女は26歳の若いスタッフの身なのに、通常業務のほかに指導、監督という業務(スタッフのマネージメント)という重荷を担っているのでした。
診断は消化器系の心身症、おそらく過敏性腸症候群*でしょうか?
そんな彼女でしたが、自分の病気は仕事の負担から起こることを心得ていたため、あまり不安げな様子はなくビジネスライク(!)に点滴を受けるために左腕を差し出したのです。
普通、消化器系の心身症の患者さん場合、自分の病気に対する不安や医療に対する不信感をお持ちなのですが、自分の仕事上のストレスに気づいていることは病気を克服する第一歩なのです。
*「職場のメンタルヘルスがとことんわかる本」47ページ参照